濹東綺譚/永井荷風著

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ぼくとうきたん

「濹東綺譚」 永井荷風作  岩波文庫

 受験勉強で有名作家名とその著作を暗記したことがある人は多いだろう。本書もそういう一作だったが、内容を知らなかった。

 読んでみると、むかしもいまも、テーマはやはり「男と女」。岩波から出ている戦前の著作も、たとえば、尾崎紅葉などの作品も男女の物語が多い。

 本書は戦前(昭和10年前後)の東京繁華街の様子や、人々の心情など、伝わってくるものがある。とくに挿絵が当時の風俗を語って、ときに目が釘付けになる。

 登場人物は主役の男性が中年過ぎの、いわば粋も甘いも解った、お金もちの遊民おじさんだが、もとを糾せば、無職、遊民、放蕩、と三拍子そろった金だけは自由にできる遊び人が夜の繁華街を徘徊する観察眼が中心の物語。

 いうまでもなく、そうした人物に一貫するのは色への尽きない興味と関心。戦前の色町や男女の機微に触れてみたい人には一読をお勧めする。ただ、当時の人が経験し、生きた世界は現代と比べ、隔絶したものがある。

 永井荷風も相当の遊び人だったとはかねて耳にしている。こういう放蕩者が金銭的に不安のない背景をもち、娼婦が闊歩する下町を夜な夜な歩き回る姿が現代とは相容れないものの、時代差を配慮すれば否定するまでもなく、主人公は愛らしくさえある。

 ただ、こういう作品が名作の一書となり、受験勉強で記憶することを強制されたことを想い出すと、当時の教師や教育者の頭脳のレベルを疑いたくなる。こんな、ただの放蕩作品が文学作品と呼ぶにふさわしいとは到底思えないからだ。


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