悲しみよこんにちは/フランソワーズ・サガン著

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哀しみよこんにちは フランソワーズサガン

「悲しみよこんにちは」  フランソワーズ・サガン(Françoise Sagan/1935-2004/フランス人)著
原題:Bonjour Tristesse (英語なら、Hello Sadness)
副題:南仏の陽光に導かれセシルは悲劇への扉を開く
裏表紙広告:20世紀仏文学が生んだ少女小説の聖典
訳者:河野万里子
新潮文庫新刊 2009年1月1日 新訳による初版  ¥438+税

 中年以上の日本人で、サガンを読んだことのない人といったら、よほど読書の嫌いな人以外にはいないだろう。

 また、サガンを読んだことがなくとも、サガンの名ぐらいは知っているはずで、それほど、サガンの作品は日本人に愛され、書店で彼女の著作を見ない日はなかった。

 ところが、私にとってサガンの作品を手にするのはこれが初めての経験で、かつて私は「ベストセラー」と「受賞作品」に加え「有名作家の著作」は意図的に避けた読書に徹していたため、サガンも例外とはならなかった。

 ブログを始めたのがきっかけで、そうした呪縛を自ら棄て、頑なだった自分を解き放ったおかげで、どうせなら、サガンを、それもサガンの17歳時に執筆、19歳時に出版したという処女作をあえて選んだ。

 冒頭の「ものうさと甘さが胸から離れないこの見知らぬ感情に、悲しみという重々しくも美しい名前をつけるのを、わたしはためらう・・・」を読んだとたん、眩暈(めまい)に似たものが脳裏に渦巻き、幻惑され、読み継ぐ気力を失いつつあったものの、次の瞬間、「想像豊かで、知性に溢れたフランスの少女が、賢さゆえの顕示欲と緊張と矜持と興奮とに包まれ、強い自意識からとびきりの言葉を紡ごうと、汗ばんだ手でペンを握り、何度も手直ししつつ、このプロローグとしての一文に集中したのだ」と想像し、納得した。

 本書は新訳であるから、当然、旧出版時の日本語より洗練された現代文にあらためられているはずだが、初めの数十ページには固さが感じられ、それが一種の峠のようになっていて、峠を越したあたりから文章がスムーズに、川をころがる石ころのように、ストーリーなりの起伏と凹凸をもって流れはじめ、読み継ぐことに難渋することなく、読みきることができた。

 17歳で、人の気持ちをここまで揺さぶることの出来たこと自体、非凡な才能を窺わせ、世界25か国に翻訳された事実にも納得いくが、ことに日本で人口に膾炙したことは、当時の日本に、開かれたフランスへの憧れと、サガンの繊細ながらも奔放な筆致への驚愕があったのだと思われる。

 この1冊で、一躍時代の寵児となったサガンは、以後、書く本、書く本、すべてよく売れ、当時、左傾して学園紛争にあった学生の書棚にもサガン作品は必ずあったといわれる。

 わが国における著作の知名度としても、川端康成の「雪国」「伊豆の踊り子」、三島由紀夫の「金閣寺」「美徳のよろめき」などに比肩できるほどのものがあった。

 ただ、本書が出版されたばかりのときに読んでいたら、どのような感想になったかは想像の埒外。


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4 Responses to “悲しみよこんにちは/フランソワーズ・サガン著”

  1. withyuko より:

     なつかしいタイトルです。
    でも、どんな内容だったのか?ぜんぜん覚えてません。大学の時第2外国語にフランス語を選択していたので教科書としてこの本をフランス語で読まされましたが、そんなに有名な本だとは知らなかったです。「悲しみよこんにちは」のほかに、この著者の短編集も教材として使われ、そちらのほうは、猟銃が出てくるサスペンスで、面白かった記憶があります。もう一度読んでみようと思います。
     Hustlerさんは、どうして、ベストセラーがお好きじゃないのでしょうか?私は、逆に新聞の書評なんかでこの本が売れている!と書かれていると読みたくなります。

  2. あきたばく より:

    新訳が出たのですね、『悲しみよこんにちは』
    ばくが持っているのは、朝吹登水子さんが訳した新潮文庫版です。
    こちらの冒頭は、「ものうさと甘さとがつきまとって離れないこの見知らぬ感情に、悲しみという重々しい、りっぱな名をつけようか、私は迷う。」とはじまっています。
    これは癖になる文体でしたね。
    久しぶりに、読み返してみたくなりました。
    ちなみに、昭和56年5月91刷の値段は200円でした。

  3. hustler より:

    ヘソ曲がりなんです。「ベストセラー必ずしも内容の充実した本ではない」と決めつけていました。

  4. hustler より:

    わざわざ連絡してくれてありがとう。旧訳とは僅かな違いですね。でも、若い頃に読んだ本をある程度時間を経過した後に読んでみると、また違った感想をもつ可能性がありますから、ぜひ再読してみて、あらためて感想を聞かせてください。

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