先を読む頭脳 羽生善治/伊藤毅志&松原仁著

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

先を読む頭脳 羽生善治

「先を読む頭脳・羽生善治」 伊藤毅志・松原仁共著
2006年8月に新潮社より単行本
2009年4月1日 新潮社より文庫化初版  ¥400+税

 羽生善治(はぶよしはる)は将棋界に君臨する天才。平成元年には19歳で竜王のタイトルを奪取、同5年にはタイトル五冠、同18年には前人未踏の「タイトル七冠」、タイトルの全制覇という偉業を達成。

 本書の作者は二人、松原は「人口知能」の分野、伊藤は「認知科学」の分野の専門家で、それぞれがそれぞれのフィールドを担当しつつ、羽生の言説を聞きながら、天才の頭脳に科学的に迫ろうとの意図のもとに生まれた著作である。

 「将棋というゲームの変化には膨大な量があり、すべての戦法、戦型に完璧に精通することは不可能」で、同じことは囲碁にも言える。「ゲームの難度に関して、次のようなデータがある」。

 チェッカー  10の30乗
 オセロ    10の60乗
 チェス    10の120乗
 将棋     10の220乗
 囲碁     10の360乗

 羽生は「インターネットでマウスをクリックして駒を動かすこともやるが、それより将棋盤の上で手を使って駒を動かすほうが記憶の点でも学習の点でも、五感をより強く刺激する」といい、作者らは、「羽生の卓越した将棋能力は子供の頃からの膨大な対局の経験、読みの経験の蓄積によって培われ、大局観をベースに、コンピューターとは逆に『読まない能力』を磨いている、つまり瞬間的に状況を把握して次の指し手を発見する」と解説。

 「アマチュア有段者は50手を過ぎると、正解率が下がるが、羽生をはじめトッププロ棋士は50手を越しても正解率が下がることはない。ただし、羽生クラスが卓越した記憶能力を示すのはプロ棋士と指した将棋のような意味のある局面、将棋としてあり得る局面に限定される」。当然といえば当然だ。

 「コンピューターはチェスのトッププロとの闘いでは、現在、ほとんど引き分けに終わっているが、将棋ではアマチュア有段者クラスのレベルには達している。現時点で、最強のコンピューターに勝てる将棋の指し手はプロ棋士を含め、全国に精々500人くらいしかいない」。囲碁はコンピューターが相手にするには、将来さらに技術的な改善があっても、最も難しい相手となることが上記した「難度データ」によっても判る。

 「将棋の難しさはチェスと異なり、取得した駒を使える点で、一方、将棋の王将はチェスのキングとは異なり、強力な部下に守られてはいないが、自らの力が強いという特徴を持っている」

(捕虜にした敵兵を見方の兵として使うという概念や思考は西欧では生まれようがなかったであろう。現実に過去の歴史のなかで、こういうことが起こったのかどうかは知らないが、いかにも日本人らしい発想ではある。といっても、戦国時代に武田軍団が破れ去ったあと、騎馬軍団の強さを惜しんだ家康が自軍に貰い受けたという史実はある)。

 実は、偶然のことだったが、つい最近、NHKのテレビで羽生善治の頭脳が一般アマチュアやプロ棋士と比べ、どのような相違を示すかという実験をMRIを使って調べる様子が放映された。

 三人の棋士の眼前に詰め将棋や盤面をいきなり出して、それぞれに回答を出すという方式だったが、前頭葉が刺激を受ける点では三者同じだった、海馬部分が刺激を受ける点は他のプロ棋士と同じだったがアマチュア棋士にはなかった。脳の基底部(脊髄に近い部分)が刺激を受けたのは羽生だけで、他のプロ棋士にも出なかった。また、回答の正確さと速度では他を圧倒していた。

 私個人は囲碁はアマチュアの2段だが(といっても長い期間打っていない)、将棋は駒の動かし方を知っている程度。にも拘わらず、NHKの早碁将棋も囲碁を見るまえに時々見ている。


前後の記事

現在はコメントを受け付けておりません。

サブコンテンツ