兄弟/なかにし礼著

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兄弟/なかにし礼

「兄弟」 なかにし礼著 新潮文庫

 同じ作家(作詞家でもある)に「赤い月」「道化師の楽屋」などがあるが、私はこの作品が好きだ。テレビで石原慎太郎と対談する場面があったが、その対談を見て、本書を読む気になった。慎太郎にはやはり「弟」という同じようなタイトルの著作(石原裕次郎のこと)があるが、本書の最後には慎太郎となかにし札との別の対談時からテープが起こされている。

 異常な兄弟関係と、兄の人となりは破格、破天荒、そんな表現を超えている。著述は微に入り、細にわたって、行き届いているし、「兄が死んだというニュースを聞いたとき、ばんざいした」という最後の場面は納得のほかはなく、なかにし礼に対し自分の兄弟のような親近感をもった。

 翻訳や歌詞を書いていた人とは思えぬ筆致、文体にも一驚を喫した。とくに、小樽の北の浜で網本から浜の一隅を買いとり、そこにニシンが入るかどうかで博打的な挙に出る場面、ニシン雲が空を覆い、男たちが汗くさい体で右往左往する様には実感がこもっていて、忘れがたい風景として脳裏に残った。

 色と匂いが鮮明なのは、作者がもともともっている資質だと思う。


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