チャイルド44(上巻)/トム・ロブ・スミス著

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チャイルド44上巻

「チャイルド44」(上巻) トム・ロブ・スミス(1979年イギリス生まれ)著
田口俊樹訳
帯広告:悶絶させられるサスペンスの連続と、完璧に造形された登場人物たちによる意表を衝く決断。プロットは複雑ながら、すべてぴたりと納まるべきところに納まる。
新潮社  2008年9月1日文庫化初版 ¥705+税

私が本書を書店に依頼して取り寄せたのは、この本がロシア国内で発禁となった問題作であったことと併せ、CWA賞の最優秀スリラー賞を受賞したことにある。

スターリン前後のソ連邦時代における共産主義社会に起きた連続殺人事件を描く作品だが、当時のこの国の社会情勢、警察のありよう、捜査のあり方、公務員の生活などが浮き彫りにされている。

「殺人、強姦、強盗などは資本主義国に固有の犯罪だ」と主張していたソ連のほうに、むしろ犯罪は多発していた事実は警察のあり方が日本の戦前の憲兵による捜査、逮捕、自白の強要といった、無実の人に罪を着せてしまう強引なやり口に酷似している。

当時のソ連では、犯罪事件は公けにされない限り、民警には捜査を始めることができず、犯罪であることが公にされるのは解決できることが明らかになってからという悠長さであり、逆に言えば、有罪にできることがはっきりしなければ、被疑者を逮捕できないという仕組みだったらしい。

作品は上下巻にわたる長編だが、読者を飽きさせない牽引力はトータルで44人の少年、少女が殺害され、どれもが胃袋を切断されているという事件の異様さに依拠している。

上巻では、飢餓に苦しむ子供が兄弟で小動物(ネズミやネコ)などを捕獲するのに、ナイフで自分の指を傷つけ、その血を動物の骨に塗り、それを紐で縛って輪をつくり、罠に仕上げる手法からスタートするのだが、兄の方がいきなり大人に連れ去られるという導入部分が読者の興味を惹起する仕掛けになっていて、その部分だけからでも作者の腕の冴えを感ずる。


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