チャイルド44(下巻)/トム・ロブ・スミス著

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書評:ためいき色のブックレビュー-チャイルド下

  「チャイルド44」(下巻)   ロム・ロブ・スミス(イギリス人/1979年生)

  訳者:田口俊樹

  新潮社  2008年9月1日 文庫化初版  ¥705+税

 ソ連邦社会では、国の警察が動かないからという理由で、警官が個人的に捜査することは禁じられていただけでなく、処刑の対象であり、身の破滅を意味した。そのことを知っていた家族、知己、友人も同じ運命をたどることとなった。だから、同じ家族間でも、密告がしばしば行なわれた。密告すれば、罪から逃れられたからだ。

 そういう社会的背景を知悉しながら、主人公とその妻は、人々からの協力すら得ながら、連続殺害の犯人を追ったが、それを難しくさせたのは「この国家は連続殺人の存在をはなから認めない」からであり、本書を面白くさせているのは、「この男は連続殺人の放擲を許さない」からであった。社会にとって大切なのは、個と個の関係ではなく、個と国家との関係だった。だから、主人公の行動はその体質に反逆したことになる。

 この国には、もう一つ、有名な連続殺人事件があった。1978年から1990年までに52人の少年、少女を殺したアンドレイ・チカチーロで、本書の作者はこの事件から着想を得たと言っている。

 ただ、作品に書かれた事件は1980年代に起こったものだが、作者はあえてl950年代に最初の事件を想定し、当時の共産主義体制下の社会の歪み、それによって引き起こされる人間関係の歪みを年代を変えることによって巧みに捉え、作品を質のよいものに昇華させている。


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