子どもと性被害/吉田タカコ著

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子供と性被害

「子どもと性被害」  吉田タカコ(1969年生)著
帯広告:あなたは愛する子どもを守れるか
集英社新書  2001年8月初版

 本書は子共らが被害者となった性的虐待に関する真面目な著作。

 以下は、私がエキスだと評価した部分だけを、言葉を若干換えて抜書きした。

1.社会的立場や自己の有利な立場を利用して相手を言いなりにさせ、性的虐待におよぶことをアメリカでは、現在「Sexual Abuse(セクシュアル・アビューズ)と読んでいる。親の立場を利用して子共を性の対象とすることも含まれる。

2.厚生省は「性的虐待の定義」を「性交、性的暴行、性的行為の強要」とし、具体的な例として「子共との性交、性的暴力、性的行為の強要、教唆、性器や性交の場面を見せる、ポルノグラフィーの被写体などを子共に強要する」と規定しているが、西欧社会に比べ、内容が陳腐で遅れている。

3.子共が被害者になっても、それが男子であれ女子であれ、沈黙を守る理由は(1)他の父親もみんなやっていることだ。二人だけの秘密にしておこうという洗脳(2)お母さんに知れたら、家庭がめちゃくちゃになる。自殺するかも知れないし、おまえは友人を失うといった喪失感のインプット(3)誰かに話したら、誰からも信用されなくなるという社会的分離を感覚としてインプットする(4)他人にしゃべったら殺すという究極の威嚇による恐怖感のインプットなどにより、沈黙を守る傾向が強化される。(性的虐待は女子だけが対象になるわけではない)。

4.ことに、子共が虐待対象になっても、子供自らが性的に快感を覚えた場合に罪悪感をもち、共犯者的な感覚が芽生え、口を閉ざすケースもある。

5.性的虐待の封印はこの問題をさらに深刻化させてしまう。

6.性的虐待の事実を断定できるのは妊娠や性感染症といった医学的な証拠だけで、たとえどこかに訴えても、「父親がそんなことをするわけないだろ」と、嘘つきにされることが多い。子共たちが発する言葉にならないサインを確実に察知するのは至難の業。ことに子共には性に関する正しい言葉の知識がないという事情もある。

7.アメリカでは売春婦の多数が過去に性的虐待を受けた体験者。マサチューセッツ州の調査では57%、サンフランシスコでは60%が、16歳までに虐待に遭ったというデータがある。日本ではこのようなデータはないが、援助交際している女子に過去そのような体験があったという例がないというわけではない。

8.日本には子共が被害体験を安心して語れるような社会的な仕組みが存在しない。

9.精神科医は「子共の頃に性的虐待を受けた女性は、一般の健康な女性に比べ、身体が弱く、病気になりやすい面がある。風邪を引く、発熱する、偏頭痛するなど、免疫機能の低下がみられるし、アレルギー体質もみられる」と診断の結果を公表している。トラウマが何らかの形で免疫系の機能低下を惹起する可能性があるのかも知れない。

10.性的虐待を父親、義父、叔父、兄などから受けた娘にとって母親が何の役にも立たず、防波堤の役目にならないことが多いことが問題の一つ。この事実が被害者の母親への憎悪や恨みを増幅する。子共による最初の事実暴露時に、母親が採る態度によって、その後の子共の心理は決定的に異なる。

11.日本における電話相談には「母親や継母との性交渉についての相談をしてくる男子がかなりいる。かれらは自分を被害者だとは認識していず、「どうにもやめられない。自分が悪い」と、自分を責めるケースが多い。(精神障害をもつ男子をもつ母親が、子共が思春期を過ぎ、マスターベーションをしている姿を見て可哀想に思い、自分の体を提供する例もあり、そういう家庭に限り、ある業者は若い女性の体そっくりに弾力のある、性器をもつ人形を製作、販売するというニュースが数年前にTVで紹介されたことがあった)。

12.癒しの専門家、ローラ・デイビスは自己変革について:

 1)自分を孤立させる羞恥心や秘密から抜け出す。

 2)自分に起きたことを否認するのをやめ、真実を認知する。

 3)理解や援助を得る道を開く。

 4)自分の感情をもっとよく知る。感情の抑制を無理に行なわない。

 5)周囲の共感を得、支えられ、体験と自身とを客観的に観る。

 6)正直な気持ちを基盤とした親密な関係を生む。

 7)現在を生き、過去に苦しむのはもういやだという信念を持つ女性たちの仲間に加わる。

 8)沈黙は虐待のはびこる土壌を醸成するだけ。その壁を破ることによって子共への虐待を抑止する。

13.沈黙は加害者を守ることになり、性犯罪は再犯性が高いといわれるように、沈黙はさらに被害者を増やすことに繋がる。

14.性的同意年齢は法的に、西欧では14-16歳であるのに対し、日本は13歳と低年齢。

15.日本の児童相談所の現場は性的虐待という非常にデリケートな問題を抱えた子供に適切な対処をしているのか。恐ろしいことに、公的機関の杜撰な対処は、いま現在も明らか。児童相談所の職員が恐怖に怯えつつ駆け込んだ女子に猥褻行為を働いて逮捕されたケースが鹿児島で起こっている。

16.日本の法律は先進国に比べ、かなり遅れている。20年から30年は遅れているとの指摘もある。

17.日本国内における性教育は終戦後の倫理観に基づいてつくられたものの延長線上にあり、「男子の射精」「女子の生理」についてはようやく記述するようになったが、未だに「性交」という文字は教育者が口に出してはいけないことになっている。子共たちは教育者が口に出さなくとも、小学校の高学年になれば、アニメ、コミック、携帯電話、インターネットなどを通じ、すでに知っている可能性があるというのに。昔と今とでは、情報量も違っているし、現今の子供は早熟である。

 以上、作者は真面目にこの問題に取り組み、各地で講演もしている。私が本ブログに、2006年3月11日に書評した(注:Amebloに記事が削除された)「ヴァギナ・女性器の文化史」(キャサリン・ブラックリッジ作)は完璧な性の教育書であることを、強調しておきたい。

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