八甲田山死の彷徨/新田次郎著

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「八甲田山 死の彷徨」 新田次郎著
新潮文庫 1978年初版

 戦前の「精神訓話」を強調するばかりの、陸軍の頭の具合を疑いたくなる内容のノンフィクション。

 八甲田山は雪のない夏山に登るかぎり、いずれかといえば平凡で、登山を趣味とする熟年の登山家にも、さして難しい山ではないが、真冬になって、大雪に見舞われ、吹雪はじめると、周囲の景色どころか、同行者の姿さえ視界に捉えきれず、深い雪のなかで方向を見失い、大変な事故に繋がる。

 東北の豪雪地帯を選んで、そこを兵隊の精神を鍛えるための訓練の場とするのは、いいとしても、予め気象的な情報を軽視し、「愚かというしかない登山を強行させた」士官、上官の決断によって、あたら若い命が多数失われた悲惨な結末は、「空前絶後の愚行」。

 もっとも、八甲田山は夏でも、場所により、メタンガスが噴出しているところがあり、その意味で危険を含んだ山ではあるが。

 私はこの作者の著書では、本書と、「強力伝」、アラスカを書いた著作の三作に、格別の評価と賞賛を持っているが、本書は戦前の日本陸軍士官のアホさ加減と、事態の悲惨さを伝える意味で、後世にまで残して欲しい作品だと思っている。


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