死体の証言/上野正彦&山村正夫著

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したいのしょうげん

「死体の証言」 上野正彦/山村正夫共書
光文社 知恵の森文庫 1990年素朴社より単行本
1995年4月文庫化

 本書は対談をまとめたものである。一方が死体解剖から死因を探る法医学者で、一方が元新聞記者でサツまわりをやっていた経歴をもつ推理小説家、いわばフィクションを書く人間と、徹頭徹尾ノンフィクションを追う人間とが対談をするわけだが、二人の会話は噛み合っていて、飽くことがない。

 また、巻末には戦後の事件、事故、社会的な変遷が年度別にまとめられており、なかには知らなかったこともありはするが、そういえばこんな事件があったなと懐旧気分にも陥った。

 一般論だが、死体に対する執着は西欧人に比べ、日本人のほうが強い。戦後、遺族団が何度も何度も戦没地を訪れ、骨を拾い、集め、あるときはプロダイバーに海の底を潜ってもらい、沈船から遺骸を揚げてもらって、砂浜で荼毘(だび)に付す光景をテレビで拝見した。西欧人はこういうことをしない。日本人は「ジャングルのなかに置きっぱなしじゃ可哀想だ」、「海の底にいるんじゃ、寒かろう」などといって、死んだ人間になりかわったような表現をする。「土」に、あるいは「海」に、要するに「自然」に還っただけだという発想はない。そんなことを思いながら、本書を読み進めた。

 法医学の本を手にするのは、むかし古畑種基氏の著書を読んで以来のことだ。なかで、目に止まった箇所をざっと列記する。

1. むかしの検死解剖は素手でやったから、肺結核、梅毒、B型肝炎、エイズなど、感染する危険をはらんだ怖い仕事だった。

 (私個人は、高校生のとき、同じ市内の国立大学祭で、人間の解剖された死体を間近く見せてもらったことがある。陰部だけは布で覆われていたが、今日では、こういう展示物はご法度だと思う)。

2. 一家5人が焼死した場合、一人ひとりを解剖して、死んだ時刻を推定する。そうすると、最後に死んだ人がその家の財産を単独で所有する形になる。 結果、その人が奥さんだとすると、奥さんの実家の親、あるいは兄弟姉妹に財産が転がり込むとうことが発生する。当然ながら、裁判沙汰になる。 以来、こういう焼死のケースでは同時死亡という検死結果を出すことになった。

3. 女性の死体をとりあえず棺桶に入れておき、翌日、解剖のために蓋を開けたら、赤ん坊が生まれていたということがあった。赤子は当然ながら死んでいたが、六か月くらいで、猫くらいのサイズだった。これは女性の体が腐ってガスを発生、それが赤子を体外に押し出す効果をもったため。棺桶の蓋が持ち上がったケースもあるが、これもガスの発生によるもの。

4. 溺死かどうかは、肺、肝、腎などの臓器にプランクトンが検出されるかどうかが鍵。(肺に水が入っているかどうかではない?)。

5. 同じ量の睡眠薬を飲んで心中をはかった場合、ほとんど男が先に死ぬ。ある場合には、男が死んで女は死なないというケースもある。女は出血に強く、慣れてもおり、痛みも経験しているからかも知れない。 

 (自然は子孫繁栄を最大重要事項としているから、大きな事故でも、例外はあるけれども、生還の可能性は子供、女、男、老人の順のように感ずる)。

6. ラブホテルでの心中の場合、事前に異常なほどの回数でセックスをした名残がある。このことは、ほとんど、どの心中にもあてはまる。

7. 死体置場は電気冷蔵庫になっていて、四十体を収容できる。一度にニ、三体を同時に解剖することもある。

8. 「死」とは、呼吸が止まる、心臓が止まる、脳機能が停止する(脳細胞の死/脳死)、瞳孔が開く、死後乾燥が始まる、体温が低下する、2、3時間後に死後硬直が始まる、皮膚面が乾燥して低下するため髭や髪が伸びた印象を与える、10時間後に硬直が解かれ、ふたたび硬直が始まる、数時間後に緩解(ゆるみ)がはじまるが、これは腐敗が始まった証拠。 

9. 30年間に解剖したのは5、000体、検死は15、000体。

 などが記憶に残ったが、もう一度読みたくなる内容だった。


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