海の祭礼/吉村昭著

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海の祭礼

「海の祭礼」 吉村昭著  文春文庫

 本書を著わす動機の出発点となったのは、時代が明治に変わる二十年前(1848年)、自ら望んで日本の地にやってきたアメリカ人(インディアンと白人とのハーフ)がいた事実への驚愕であろう。

 コーカソイド(白人)ではなく、モンゴロイドの容貌をもつ男への好奇心が著者独特の丹念な筆運びを通じ、読む者にじかに伝わってくる。筆の運びに主人公への強い愛着、愛情すら感ずる。

 当時はまだオランダ語が唯一の西欧語で、これを学んだ通詞は少なくない。そうした時代背景のなかで、不法入国者である男から必死になって英語を学んだ日本人通詞との関係は、実際上わずかな期間ではあるが、史実を徹頭徹尾追って描く作者の腕によって、ひとつひとつの場面が鮮やかに脳裏に浮かび上がる。

 いつもながら、奇異なもの、異状なものに対してもつ著者の強い関心は読者を同調させ、共鳴させる。


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