熱/高樹のぶ子著

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ねつ

「熱」 高樹のぶ子(1946年生)著
1994年 文芸春秋社より単行本
1997年5月 同社より文庫化初版  ¥429

 本書は、同じ年に書かれた「蔦燃」(2005年7月20日書評)に比べて、エロスと官能を追う内容としては、感性に鋭さが欠け、もの足りないものが残る。同じ年度に書かれた小説とは到底思えない、稚拙さすら感じた。

 いわんや、その後に書かれた、「透光の樹」(2006年11月12日書評)「罪花」(2006年4月20書評)に比較したら、雲泥の差、月とスッポンの差を感ずる。

 小説というものは、所詮はでっちあげの創作物でありながら、展開のなかに二回にわたって夢の話が長く書かれると、バブルにバブルを重ねた「砂上の楼閣」のような印象が強く、「つくりもの」としての小説が本性を剥きだにしてしまい、本来切実な男女関係が希薄になってしまう。小説に夢の話を書くことも、それを読むことにも、私はうんざりする性(たち)だからかも知れないが。

 だいたい、主人公の女性の相手の男の優柔不断さが、書き手の思惑がどうあれ、読み手としては我慢の限界を超え、むかしなら「女の腐ったような男」という表現がぶつけられただろう。

 解説者が「性の深遠を本書に込めた」と褒めているが、世辞に過ぎない。過去に書評した作品のレベルからは遠い距離にある作品としか、私には評価できなかった。高樹のぶ子の作品とは思えなかったほどだ。


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