相対論がもたらした時空の奇妙な幾何学/アミール・アクゼル著

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相対論がもたらした時空の奇妙な幾何学 アミールアクゼル

「相対論がもたらした時空の奇妙な幾何学」
著者:アミール・アクゼル(Amir D. Aczel/アメリカ人/ポピュラーサイエンスを主題とする著書が多い)
原題:GOD’S EQUATION
訳者:林一
帯広告:(1)文系のかたにも安心してお読みいただける<数理を愉しむ>シリーズ
(2)偉大な科学者の人間的な姿に迫る快著
早川書房より2002年に単行本  2007年5月20日文庫化初版 ¥680+税

 本書はアインシュタインが「一般相対性理論」に到達するまでの苦労やエピソードや他の学者とのかかわりなど、紆余曲折を紹介しつつ、宇宙論を展開するという仕掛けになっていて、帯広告にあるように「人間的な姿に迫る」ことをも平行して意図している。

 個人的には徹頭徹尾、学術面にだけ絞って書いて欲しかったとは思ったものの、読了してみると、この種の科学書はむしろ珍しく、それなりに面白い面のあることを認識した。

 なかで、目に止まった部分だけを以下に記す。

1.「宇宙定数」とはアインシュタイン(1879-1955)が重力場の方程式に付け加え、後に自ら誤りだったと言って取り消したものだが、現実にはこの方程式が発揮した力と洞察には鋭いものがあり、予見性は驚異としか言いようがない。

2.紀元前4世紀、ユークリッドの「原論」は以後2千年以上にわたって数学研究の水先案内人を務めた。ユークリッド数学は早くからアラビア人に知られていたが、欧州にもたらされたのは12世紀に入ってから。とはいえ、当時は500年にわたり、欧州では疫病や戦乱が続き、数学は進歩しなかった。ユークリッドがあらためて紹介され、幾何学の解釈に革命を巻き起こすきっかけとなったのは、ガウス、ボヤイ、ロバチェフスキーの3人による。

3.ユークリッドの唯一の欠点は球体を知らなかったことで、地球上では平行線は必ずどこかで交わってしまうことに気づかなかった。以後、数学の学会では、ユークリッド的かユークリッド的でないかとの議論が盛んになる。

5.アインシュタインは相対性理論を創造するうえで、多くの数学者の恩恵を受けている。たとえば、「空間は重い天体のまわりで湾曲しており、光線は天体のそばを通過するとき曲げられる。さらに、重力場を這い上がろうとする光線はエネルギーを失う」という稀有の考えが脳裏に浮かんだとき、それを検証する手立てを数学者に求めた。

6.1913年には、上記を検証しようとの協力者が現れ、日食を観測することで事実を把握する計画が浮上したものの、翌年オーストリアの皇太子夫妻がセルビアで暗殺され、第一次大戦が始まり、観測は諦めざるを得なかった。

7.アインシュタインは単独で「太陽の淵をかすめるとき予測される光の曲がりは1.75秒である」と公表。

8.天才数学者、リーマンはアインシュタインの公式を用いて、時空が四次元であるがゆえに整数1-4をとる添え字、UVを用いて、一般相対性理論の方程式を導くことができた。また、リーマンの研究成果は一方で「微分幾何学」という20世紀になって発展する分野をも、トポロジー的手法を含め、切り開いた。

9.「我々は4次元の球、あるいはトラス(円環状)、あるいは巨大なクラインの壷に住んでいるのか」は、一般相対性理論と宇宙論研究者の研究が示唆する最も重要な疑問の一つ。

10.ゲッチン大学のエミー・ネーター(1882-1935)が残した仕事は、アインシュタインの重力場方程式からは二つの帰結が導けることを示唆。一つは、エネルギー・テンソルの保存の関係、もう一つは「縮的ビアンの恒等式」と呼ばれるもの。

 1915年に、アインシュタインが完成した方程式は、Ruv-1/2gmR=8πGTuv

11.大戦中にアメリカで発表された一般相対性理論は友人の努力によりイギリスのエディントンに送られ、エディントンはこの壮麗な理論を米国と英国に広めようと最善を尽くした。

 戦後、エディントンは二隻の軍艦を調達し、一隻をブラジルに、もう一隻をアフリカに送り込み、双方で日食を観測した。日食時、太陽の周囲には13個の恒星が見え、観測の結果はアインシュタインの「1.75秒のふれ」に一致したが、このニュースは肝心のアインシュタインには直接知らされることはなく、アインシュタインは1919年にオランダのローレンツから間接的に聞いて知った。

12.質量のある天体のそばを通過する光は曲がることが事実だということは判ったが、それでは「宇宙全体はどうなっているのか」が新たな疑問として浮上した。アインシュタインは自分の提示した方程式から「宇宙は膨張か収縮か」いずれかになることを発見したものの、自らこの結論を信じなかった。現代の我々は遠い銀河が無限遠に向かって光速の95%を超える速度で飛び去っていることを知っている。

 (この事実を決定的にしたのは八プル望遠鏡)。

 アインシュタインは「宇宙定数」というものを付け加えたものの、付け加えたことに気が休まることがなかったという。

 宇宙空間はランダムに配置されていず、構造がある。銀河は銀河集団をつくり、それ自体「超銀河団」という配列をつくる。銀河団のあいだにはそれぞれ数百万光年という大きな空間がある。

 確認できる天体の数のもつ質量だけでは、本来あるべき質量の90%が不足している。見えない部分に「ダークマター」(暗黒物質)という正体不明のものが存在しているのではないかと考えられてきた。また、宇宙に数えきれぬほど存在するニュートリノの存在も判ったが、宇宙空間にあるべき質量には到底およばない。

14.「宇宙には目に見えない奇妙なエネルギーがある」とか、「超ひも理論の登場」とか、そうした新しい理論の展開は、すべてアインシュタインの残した「宇宙定数」に拘泥した上でのもので、定数理論は尽きることのない有用性を持っている。

 遠い星はものすごい速度で遠ざかっているが、近隣の銀河間の距離は決して遠ざかってはいず、むしろ、遠い将来には互いに衝突する可能性すらある。

 本書には科学者のエピソード、人間関係、私生活などがかなりの量で書かれ、帯広告にあるように文系の方にも愉しく読んでもらえることは間違いない。


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