天国はまだ遠く/瀬尾まいこ著

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「天国はまだ遠く」  瀬尾まいこ
2004年6月 新潮社から単行本
2006年11月 同社から文庫化初版
著者は「坊ちゃん文学賞」「吉川英治文学新人賞」に恵まれている。

 主人公の女性は家族関係、知己との関係、会社での人間関係すべてに挫折し、自殺を決行するために地元を出、丹後の田舎に向かう。山里の客のいない民宿に入り、その夜、家を出るまえまでに貯めこんだ14錠の睡眠薬をいっぺんに飲んで床に就くも、2日間眠りこけて生還する。

 民宿の主、若い独身の男性に面倒をみてもらいながら、海や山のある生活、自然の息吹との触れ合いを通して、精気を取り戻すも、丹後の田舎が自分の居場所ではないことを悟り、帰ることを決意。

 主人公の女の子の個性も、民宿の経営をする男性の個性も、それぞれに奇抜であり、奇異でもあり、20日間も二人だけで同じ家に暮らしながら、男女関係は一切ないという展開もユニークで、それなりに面白いが、ひょっとしていずれは二人は結ばれるのではないかとの期待もあって読み続けたが、淡々とした関係は最後まで変化せず、読者にもよるが、そこが面白いという読者と、やや物足りない感じを受ける読者とがいるだろう。

 文庫本の裏表紙には「心にしみる清爽な旅立ちの物語」との評があるが、作品のどこにも、新しい旅立ちを約束するような、今後の人生に成功を予感させるような確かな暗示はなく、その意味ではきわめて曖昧模糊とした展開というしかなく、裏表紙の言葉は完全なコマーシャル。

 作者自身が教師で丹後に赴任したことがあり、そこで自然や風物詩に接したことがモチーフとなって、この作品が紡がれただけの、真実味に欠け、深みがなく、ましてや読み手の心を鷲掴みにするような迫力などはさらにない。

 むしろ、主人公の女性はいずれ遠くない将来、再び自殺を思い立つのではないかという想像の方が「新しい旅立ち」という表現以上に色濃く、読み手の脳裡には残ってしまう。

 一つ気になったのは、神経質で小心な女の子が、鶏が嫌いで、しかも目の前で絞められた鶏の肉を、その日のうちに口に出来、美味だと評価したのは、現実としてありそうにない。もし本当の話だとしたら、この主人公はよっぽど変わった女の子ということになる。鶏が絞められるのを見てしまったら、その肉を口にはできないというのが平均的な人間の示す反応だと思うから。

 手厳しい評となったが、以上が読後の正直な感想。


前後の記事

2 Responses to “天国はまだ遠く/瀬尾まいこ著”

  1. 鬼が島 より:

    コメント感謝!
    私も文章書きが好きで色々書いています。
    宜しくどうぞ~♪

  2. くみ より:

    私、この本大好きです!
    主人公と田村さんが恋愛関係にならないところがまたいいと思いました。
    読んでてほっとする作品です。

現在はコメントを受け付けておりません。

サブコンテンツ