アジアの地獄/遊人舎編

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あじあのじごく

「アジアの地獄」 それ行け!!バックパッカーズ(2)
遊人舎編  小学館文庫 2000年7月初版 ¥476

 バックパッカーの起源は、ヨーロッパ人であることは事実だが、日本人としては「深夜特急全5巻」をまとめ、この種のツアーに先鞭をつけた沢木耕太郎を無視するわけにはいかない。

 本書に収められた各人のアジア体験は例外なく軽いタッチで、テンポも速く、非常に読みやすい。シリアスな問題がシリアスな結果を招来していないことが救いとなっていて、なじみやすい内容となっているが、旅行を専業とし長期間を外地で過ごした経験からいえば、事前の調査がいいかげんでありながら、幸運にもシリアスな結果とならなかっただけだという印象もなくはない。

 現実に、インドネシア、バリ島にサーフィン遊びに行ってた二人の若い日本人男性が、テロのあったクタ地区でエクスタシー(麻薬)を買ったところをポリスに見とがめられ、クロボカンという監獄に収監されたことがある。「監獄」と一口にいっても、先進国と発展途上国とでは、施設内容に隔たりがありすぎ、トイレはフラッシュ式ではなく、エアコンのない30平米ほどの部屋に50人くらいが詰めこまれると、トイレに山となった人糞と、男たちの汗で、内部は我慢の限界を超えるほどの暑熱と臭気に満ちる。

 バリ島に長い日本人女性が通訳に呼ばれて当人二人と面会したときは、二人とも涙をためて、「ここから一刻も早く出してください。保釈金が必要なら、日本の親の電話番号を教えますので、国際送金してくれるはずです」と訴えた。

 彼らは幸運にも数日後に釈放のうえ、強制送還されたそうだが、他国へ足を運んだときは、他人の庭に入っていることを認識していないと大変な結果を導くことがあり得ることを知っておいたほうがいい。もし、これがシンガポールだったら、即「死刑」を免れない。また、親が送った金は、この国の実情から考えて、監獄管理者のポケットに入った可能性が高い。 スハルト以後、軍隊はもとより、公務員の給料はわずかで雀の涙ほど。「自分の立場を利用して、上手に稼げ」はある意味で国是とすらなっている。スハルト以降、何代か大統領が替わったものの、長いあいだにしみついた悪習は容易に身から抜けない。

 もちろん、バックパック旅行は先進国よりも発展途上国を旅することに醍醐味がありはするが、醍醐味があるだけに、リスクも存在することを認識し、慎重な言動が必要となるはずだ。

 本書はアジアで出遭ったハプニングやトラブルをエピソードとして紹介しているが、エピソードですまなくなるようなケースに発展することのないよう、旅をするまえに、インターネットその他でデスティネーションについて詳細に調べておくことをお勧めする。

 概して、現代日本人は、国内であまりにもサニタリーの行き届いた生活をしているため、体の免疫力が低下していることは事実で、現地人と飲食を共にしたりしても、日本人のほうが下痢、腹痛、頭痛を起こすことがよくある。

 ことに、熱帯地方には、天狗熱、マラリア、チフス、コレラ、サルモネラ、赤痢といった伝染性の病気はもとより、南京虫、蚊、蝿、ゴキブリ、シラミ、ダニ、ヤモリ(害虫ではない)など日常茶飯事に目にするし、放し飼いの犬にも狂犬病予防の注射を打っていないことが多い。

 また、かれらは畑の肥料としていまだに人糞を使っているから、野菜に回虫の卵などが付着しているケースもあり、回虫が体に発生する危険も否定できない。現に、ジャカルタに住んでいる日本人出向者の妻が回虫薬を飲んだあと、肛門から大きなミミズといったサイズの回虫がぶら下がったのを目にして卒倒したという話がある。

 こうした国への旅には抗生物質の携行は必須と思っていたほうがいい。

 また、彼らの主食に牛や豚が使われることはまずなく、大体が鶏肉であるから、鶏肉を好きになっておくことも重要な鍵だろう。場所によっては、犬の肉、羊の肉、大トカゲの肉、ウミガメの肉、カエルの肉が供されることもあり得る。むろん、イスラム教国では豚や犬を目にすることはない。

 さいごに、若い男は海外に出るとき、髭をはやしておいたほうがいい。どだい、日本人は顔がフラットで子供に見えるせいか、居酒屋やバーでパスポートの提示を求められるのみならず、オカマのターゲットになりやすいからだ。

 もう一つ、「日本人は甘い」という観念、というより常識が東南アジアにはある。もらった釣りを勘定しようとしないばかりか、円やドルを両替したときすら、一枚の札が何十枚にも増えてしまった当事国の通貨を面倒という気分が先走って勘定しようとしない。こういう「甘さ」は日本人だけで、西欧人、中国人、韓国人はみなしっかり勘定するし、不足金があれば、即座にクレームをつける。

 日本では、両替が可能なのは銀行だけであり、しかも大蔵省から両替の免許を得て行っている。だからといって、海外の国がすべて同じ方式を採用しているわけではない。日本人がだまされやすいのは、日本の方式が海外でも通用すると思う勝手な推測であり、日本のお店では釣りをごまかさないから、海外のお店でもごまかさいという根拠のない信頼があるからだ。

 両替で最も危ないのは、信じられないかも知れないが、空港にある銀行職員である。かれらは日本人が両替した通貨を勘定しないのを知っているから、はじめから少なく渡し、万が一勘定されて、不足を訴えられれば、もう一度勘定したうえで、「間違ってました」といって不足分を補えば、ことがすむ。しかも、両替できるところは、国によって異なるが、両替所が軒を連ねているケースがあり、店の前に出ている看板の両替率に作為的な嘘が多いことも知っておいたほうがよい。

 さらに、ホテル内での両替についても、百パーセント信頼できると思ってはいけない。為替はレートを少しでも換えれば、両替する金額にもよるが、かなりの実入りとなり、これを続ければ、かれらの給料程度はすぐ稼げるのだ。

 バリ島では、お土産店の主人も従業員も、品物の価格を、欧州人用価格、オーストラリア人価格、中国、韓国人価格、日本人価格、そして現地人価格とはっきり分類している店が多い。むろん、日本人価格が最も高く設定され、現地人価格が最も安い。日本国内の物価と比較する習性をもつ以上、かれらの提示する価格が安く感じられるのであろうが、「半額に削ってやった」といって喜んでいる程度の交渉では、欧州人価格と比較し、まだまだ大幅な開きがあることを知るべきだ。バリ島にいた頃、私は現地でのショッピングは常にドライバーに頼んでいた。

 世界有数の、物価の高い国からやってきている事実をあらためて認識することをお勧めする。


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