北朝鮮・中国はどれだけ恐いか/田岡俊次著

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きたちょうせん ちゅうごくはどれだけこわいか

「北朝鮮・中国はどれだけ恐いか」
田岡俊次(1941年生/朝日新聞社記者/軍事ジャーナリスト)著
帯広告:極東軍事情勢の理解に必須の書
執筆は2006年11月初めより12月18日までの間
朝日新書  2007年3月初版

 タイトルに即した内容にだけに絞って執筆されていず、関連する国、事象などを含めて書かれているため、読了まで時間がかかったが、新たに知ったこと、驚いたことなど豊富な知識を開陳しているため、学ぶことは僅かではなかった。

 以下は、ポイントを出来るだけ絞って、列記するが、多少長くなる。

1.空軍:戦闘機の数は韓国470機、日本370機、英国330機、フランス250機、ドイツ390機、北朝鮮は旧ロシア製のミグ機で、ほとんど使えない。

2.韓国のGDPは北朝鮮の36倍。

3.1991年、米国は核爆弾(約100発)を韓国からすべて撤去し、本国で保管。

4.ゴルバチョフ時代、1990年、ソ連は国交のなかった韓国と国交を樹立。以後、北朝鮮は自己防衛の必要を感じ、本格的に核兵器の開発に向かった。

 プラトニウム抽出技術を独自に開発、寧辺に大規模再処理施設を建設する計画を立てた。また、38度線の北側に240ミリ、122ミリ、107ミリと三種の多連装ロケットを2,500基、170ミリの長距離砲を含め、地下陣地に敷設。もし戦争が始まれば、最初の12時間にソウルに5千発が浴びせられると在韓米軍は想定。90日間で、米国兵士は5,200人の死傷者、韓国軍は49万人、民間人を含むと、合計100万人の死者が出ると見積もっている。

 国連による制裁をしないとの約束のもと、1994年危機は回避された。地下陣地はどこに存在するかが判らず、クラスター爆弾を打ち込んでも効果は期待できないとの判断。

5.1998年、北はパキスタンからウラン濃縮用の遠心分離機20台余を輸入したが、電力不足でこれを効率よく使って高濃度のガスをつくり、これから固体のU235をつくることはできなかった。ウランに比べ、プラトニウムの製造は比較的簡単。(ただし、ウランを使った方がプラトニウムを使った核爆弾より、効果は絶大)。

6.2001年、ブッシュはそれまで北朝鮮に続けていた年間50万トンの重油の供給を停止、北を「悪の枢軸」と名指しした。2002年、北は査察官を追い出し、NPTからの脱退を表明、原子炉の再稼動を宣言。2003年には、原爆5,6個分のプラトニウムが抽出できたと推定され、2005年には、さらに5,6発分のプラトニウムを得、11発から14発の製造に成功したのではないかと考えられている。

7.2005年、北の偽ドル札事件とのからみで、マカオのバンコ・デルタ・アジア(BDA)銀行を資金洗浄(マネーロンダリング)に関与した疑いで、米国金融機関は取引を停止。中国の銀行もこれに追随、北にとって大きな痛手となった。BDAは信用回復のため、北の企業、機関の約50の口座、計、約、400万ドル(28億円)を凍結。

8.北は同年9月に、核実験を実施したが、日本国民はそのことの脅威をあるがままに受け取らなかった。ノドンや長距離ミサイルをつくっている以上、日本やアメリカへの攻撃がありえない話ではないことは、勝てるわけのない戦争にあえて突っ込んだ日本を考えてみれば判ること。もし、突発的に戦争が始まれば、北朝鮮は日本の原子炉を狙い撃ちすることも間違いない。

9.1945年、日本に落とされた原爆は、広島にはウラン原爆で13キロトンの威力、長崎にはプラトニウム原爆で、23キロトンの威力だった。(明らかに、米国は原爆の実験を日本を相手にやったが、広島は平坦な土地、長崎には山や丘が多く、ウランを使った効果を観測できなかった)。

10.ブッシュは一貫して「北の核のレベルは低い」ことを強調したが、これは日本の核武装を恐れるあまりの発言で、北の核のレベルを適切に判断してのことではない。北の問題は中国に任せるというような自主性のない挙に出たのは、アフガニスタン、イラク問題が片付いていず、税金から膨大な軍資金を使い、一方で国民の経済的格差は中南米以上という実態への批判に耐えかねたからだ。

 (同時に、日本がその気になれば、核武装など簡単にやってしまう技術的力量をアメリカは認識している)。

11.核実験をする際、北は中国に予め、4キロトン級の核実験を行う旨を伝えてきている事実は、北が小型化に成功していると考えるのが妥当。

12.ノドンの命中率はよくて2キロの誤差、東京に落ちても、警報が予めあって地下に入れば、軽微ですむが、昼間人口が159万人とすれば、120万人は助かる計算。

13.スウェーデンは民間防衛に熱心。ストックホルムの地下に巨大な駐車場を設置し、核シェルターにするために上下水道や自家発電を実際に備え、簡易トイレの設備も準備している。各ビルには必ず地下室を設けさせ、アパートの地下室は金網で仕切って各戸に割り当てられている。人口900万人の国ながら、一流の戦闘機、潜水艦を含む大部分の装備を国産化し、有事には26万人の予備兵を即座に動員できる仕組みをつくっている。

 (国境を接し、過去、幾多の戦に巻き込まれたり、自ら戦を仕掛けた歴史から学んだ結果であろうが、日本人には他国からいきなり戦を仕掛けられ、悲惨な目に遭ったという経験をもたぬため、「平和が好き」などと言っていれば、戦争は起きないと思い込む甘さがある)。

14.弾道ミサイルを初めて開発したのはドイツ(第二次大戦中)によるA4ロケットで、2発がパリに、1054発がロンドンに落下、多くの市民が犠牲になった。新兵器が登場すると、それに対抗する防衛兵器が開発されるのが通常だが、弾道ミサイルだけは例外で、以来、60年余が経つが、適切な防衛兵器は生まれていない。アメリカの空中で破壊するスカッド・ミサイルにしても、多数のオトリ弾頭を含むミサイルが飛んでくると、識別は困難。

 (最近、日本で、イージス艦からミサイル邀撃(ようげき)実験がなされたが、失敗した)。

15.イージス艦は2010年には4隻がSMSの発射能力をもつ。現在ある4隻に加え、別型2隻が建造中で、2007,8年に就役予定。SMSの目標は高度120キロー160キロの宇宙空間での迎撃を狙う米国の静止衛星DSPが弾道ミサイル発射の際に出る大量の赤外線を探知すると、そのデータがデンバーの管制センター経由、日米の全イージス艦に警報が送られる。

16.北は核弾頭は10発程度もっているが、ノドンは200基以上あるといわれ、ノドンが10発以上を一斉に発射されると、防御は難しい。イージス艦の対空システムを使って実際に迎撃できるのは一つの目標に対して2発を要するから、7つの目標にしか対応できない。とはいえ、飛行機による攻撃によれば、迎撃は容易。狙われるのは都心部、原子炉、米軍基地、自衛隊基地であろう。ただ、北のミサイルの命中率は誤差が大きく、レベルは低い。

17.北が戦争を仕掛ければ、敗戦は必致であり、国土は焦土と化すことは目に見えている。だから、やってはこないだろうと考えるのは過去の自分たちが犯した戦争を忘却した平和ボケの思考であって、北の軍がクーデターに出たり、政権を掌握して、突発的な行動に出ないとは限らない。一部の軍人が「死なばもろとも」とやぶれかぶれの攻撃に出る可能性は常にある。相手が絶望的、非理性的であれば、抑止の概念そのものが成り立たない。自爆テロ犯に死刑が抑止効果をもたないとの同じ。

18.ただ、軍事威嚇を示す国ほど、軍事力は弱体で、ために虚勢を張る。北はそういう国である。

19.核を持っている国、原子力発電所を持っている国には、必ず査察が入るが、査察の過半は日本に向けられている。これは、米国がいかに日本が経済力があり、技術大国であり、至近距離に虚勢を張る国が存在することから、日本が核武装をするのではないかと恐れるアメリカの思惑である。

20.シェルターの設置、ミサイルによる防衛、米国の「核の傘」、三つとも「ないよりはまし」程度のものだが、これ以外に現実的な方策はない。

21.中国、ロシアが北よりも韓国と親しい関係にある今は、米軍としては在韓米軍を減らす傾向にある。

22.日本の対北朝鮮への経済制裁(船の入港禁止、金品目の輸入禁止)措置は、他の国、韓国、中国、タイ、ロシアなどの貿易の増額によって、象徴的な意味しか持たない。

23.中国は現在北朝鮮との国境沿いに1・8メートルの鉄条紋を延々と設置し、国境警備に武装警察隊に代えて第6集団軍、第64集団軍の2個集団軍、計10万人の兵力を置き、戦車師団、機械化歩兵師団を派遣しているが、北朝鮮内の体制変換を想定し、難民の流入を阻止する目的をもっている。中国南方航空は北京ー平城便の渡航を停止した。日本の経済制裁より、北にとっては打撃であろう。

24.1976年以来、中国は2003年を除いて、毎年防衛費を10%以上増やしている。これは、かつて高度成長をしていた頃の日本の防衛費の伸びと同じ。

25.1980年代初期、中国は390万人の陸軍がいたが、160万人に削減する一方で、150万人を武装警察官として切り離した。

26.鄧小平の時代、中国軍が兵器の近代化を意識したのは、米軍がヴェトナムから去ったあと、ヴェトナムがカンボジアに侵略を開始したため、北側から人海戦術で、ポル・ポトを援助する目的をも踏まえ、ヴェトナムを攻めたとき、米軍の残した近代兵器を使うヴェトナム兵に手こずり、結果、中国は撤退するまでに、死者1-2万人、負傷者3万ー5万を出し、ヴェトナム軍は戦士7千人ー8千人、負傷者3万ー5万と推定されたが、この戦争は中国の事実上の敗戦に終わった。しかし、この戦争が米国の中国への好感度を上げさせ、米中貿易は飛躍的に増大、中国は外資導入が容易になった。ポル・ポトが大量殺戮を行っていたことは両者の知るところだったが、ヴェトナムは米国にとっても中国にとっても敵であったため、「敵の敵は味方」という国際政治の単純な原則で、両国に和解が成立したという皮肉な結果を招いた。

 米国は対ソ戦略の観点から、中国を「非同盟友好国」とし、密かに軍用ヘリを24機、民間名で売却。このほかにも、1989年までの4年間に米国は中国へ武器輸出を続け、金額にして850億円に達した。

 このことがあって、中国は「日本の北方領土返還要求を支持する」との声明を出したり、自衛隊の存在を認めたり、過去とはまるで異なる姿勢を打ち出したが、これは中国人らしい実利主義の凄みというものだろう。

27.米中の新たな関係によって、米国や日本と台湾との外交関係は切れたが、上下院の超党派がカーター大統領に迫り、台湾との関係を維持する「台湾関係法」を決議。二股政策をとりつつも、台湾への新型戦闘機などの輸出はストップされた。

 ところが、1979年、ソ連がアフガニスタンへ侵略行動を起こし、結果、ソ連側が兵の死者、1万3800人を出し、1988年に撤退を余儀なくされ、軍事的威信を喪失。89年には、ベルリンの壁が崩壊、東ドイツ、ハンガリー、ポーランド、チェコ、ルーマニア、バルト三国などがソ連邦から脱退、ソ連邦そのものが瓦解。これを機に、アメリカは軍縮に着手、軍需産業就労者を救うため、それまで禁止状態にあった台湾への武器輸出の再開を許容。裏面には、中国が次第に軍事的な脅威となりつつあるとの認識もあった。台湾の輸入額は2兆1千億円、中国は2000年代に入ってから急激に拡大、1997年から2004年までの8年間に1兆5千億円の武器輸入を行った。

28.ロシアの総兵力は39・5万人に激減。ウラル山脈の東に10万人弱となり、ロシアの東での脅威が消えたため、中国の軍事力も、この20年間で3分の1に削減、韓国、台湾は増加、日本は微減した。

 (ただし、本書の出版後にはロシアはかつての軍事力を回復させ、威信を取り戻そうと懸命。現に、グルジアへの侵略行為はその一環)。

29.中国の戦闘機、爆撃機の大半は旧ソ連製の旧式なタイプであり、制空能力を過大に評価するのは中国が発表する機数だけにとらわれてのこと。

 (制空権はむしろ台湾の方が機種の優秀さ、機数、パイロットのレベルなどかららみて、上位にあるだろう)。

30.日本ではファントム戦闘機はピークが24機、F15J戦闘機の18機を含め、トータル370機だったのに対し、台湾は95-99年の5年間に国産の戦闘機が90機、F16が150機、フランスのミラージュが60機、計300機を所有し、トータルでは420機に達した。アメリカからの一時的な冷たい扱いを経験した台湾はアメリカだけに依存する愚を考え、フランスとも親しくつきあつようになっている。

31.今日、中国はロシアのSU27と30シリーズを約70機、イスラエルの技術支援で国産化したJ10が65機と言われるが、国産機はファントムのレベルからは程遠い。

32.航空機は定期的な機種改変は必然であり、修繕費用、部品の調達など安価ではない。訓練にも飛行1時間につき200万円がかかる。パイロット1人に年間150時間の訓練をするのに3億円が必要となる。こうした点でも、中国が国土の広大さと、国境を接している国が12か国もある現状から、軍事による防衛としては1000機の戦闘機が必要と言われるが、1000機を所有するだけならまだしも、訓練や修繕費などを考えると、現実には不可能。また、中国空軍の最大の欠点はレーダーサイト空中警戒機、防空指令所、対空ミサイル群を結び個々の戦闘機などにデータリンクで情報や指示を送る自動化したシステムが欠落していること。

 (中国は先端技術にはまだ弱く、先進国のレベルに達していない)。

33.一方の台湾は機種もレベルが高く、パイロットの訓練にも手を抜いていず、所有数も多い。現在では、中国本土に渡って商売をしている台湾人も多いし、資本投下しているケースも僅かな数ではないため、独立を叫ぶ声はやや沈静化しており、現状維持を鼓吹する人が増えている。一時、中国が台湾領土の金門島を攻めたことがあるが、その折り、台湾の戦闘機によってあっという間に撃退されている。

34.中国は冷戦終了後、ロシア製の通常推進潜水艦「キロ」型の輸入を始めた。2004年に、石垣島と宮古島のあいだの石垣水道を突破し、日本の領海を侵犯したことがニュースになったが、これを日本側は日本海上自衛隊の探査能力を調べるためとの情報を流したが、実は、技術的な問題であって、中国の潜水艦がコースを間違えただけであることが判明。後に、日本大使に遺憾の意を表し、「技術的要因」とだけ述べている。

 中国は国の体面を保つため、弾道ミサイル原潜を2隻建造中だが、日本はアメリカ型16隻を所有。一方、台湾海軍の対潜水艦作戦能力は新型フリゲート艦やヘリコプターーなどを使いこなせるようになって、急速に戦闘能力を向上させている。台湾は潜水艦は2隻しか持っていないが、潜水艦探知システムを全面的に近代化しており、対潜水艦ヘリは米海軍や日本の海上自衛隊と同じく、SH60を21機輸入し、上空からの探査の効率性を重んじている。中国が台湾周辺を潜水艦で封鎖したら、相当の損害を覚悟しなければならないだろう。

 台湾はもともと中国を仮想敵国としてこざるを得ない状況にあり、ために軍事力の増強に力を入れてきただけに、今では日本よりも軍事力は上。

35.偵察衛星を破壊するのに当初ミサイルの使用が考えられたが、地上からのレーザーでカメラや送信機を破壊し、機能停止に追い込むほうが安価で簡単であることが判った。

36.米国と中国とは、米国と日本よりも親密な関係であり、日本が国連の常任理事国となることを両国はともに反対した。国際関係とはこういうものだと考えておいたほうがいい。韓国にしても、ヴェトナム戦争時、アメリカの要望に応え、5万人の兵士を送って参戦したが、4,400人余が戦死を出したものの、アメリカはこれに対しあまり感謝しているようではなかったし、日本の自衛隊によるイラク派遣にしても感謝は口だけ。

37.中国の汚職は検挙者4万1407人、起訴3万205人、中央政府課長級以上が2,793人、閣僚級8人。

 本書はサブ・プライムローンに発したアメリカの金融危機や、中国の食材の危険や、中国がアメリカのサブ・プライムを40兆円も買っている事実、アメリカの大統領選挙の結果次第でまた国際軍事上の変化が起こる可能性などなどについては書かれていなかったが、これは執筆時期とのずれに原因があるだろう。

 内容で最も痛感したのは、米中を中心とする国際政治の在り様、誠意というものが人間関係に存在するようには存在しないこと、米国という国が外交面では必ずしも信頼を寄せていい国ではないことをひしひしと感じた。日本人が外交下手という島育ちの欠点を昔から持っていることも。つまりは、「自分の国は自分で守る」のが世界の常識であり、「平和が好き」などと言ってるだけでは平和は確保できないということだ。


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