たのしい植物学/田中修著

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

楽しい植物学

「入門・たのしい植物学」
田中修(1947年生/甲南大学理工学部教授)著
講談社 ブルーバックス  2007年1月初版

 1997年にイギリスのイアン・ウィルムット博士が羊のクローンを誕生させ、当時、全世界を驚かせた。

 以来、牛、馬、犬、猫などにもクローンが誕生、現在ではマンモスの化石から細胞を採取、雌象の子宮に挿入してクローンを誕生させようとの試みが進行中だが、「植物の世界ではクローンは大昔からやっていたことで、別に珍しくはない」という話から本書は始まる。

 以下、学んだこと、気になったこと、などを記す。

 動物のクローンは未受精卵から核を取り除いて、雄の細胞の核を入れ、それを同じ動物の雌の子宮に入れて育てるという手法を採る。従って遺伝子を継ぐことはない。

 植物の世界ではむかしから「接ぎ木」「挿し木」による栽培方法があり、いずれの場合も、できた花に人工的に受粉させて果実をつくっても、クローンであることに違いはない。

 豊臣秀吉が盛大な花見を催した京都の醍醐寺で育っているシダレザクラは老齢のため樹勢が衰えたので、専門家がバイオテクノロジーの「組織培養」という技術を使って、一つの芽から大量の苗をつくることに成功、2000年にはシダレザクラのクローンが育ち始め、2004年には見事に花を咲かせた。

 トウモロコシ畑が品種ごとに数百メートルずつ離して植えられるのは、別の花粉が受粉した場合に、性質に変化が起こるからで、この現象を「キセンア」といい、「もち米」と「うるち米」との関係にも、同じキセンアが起こる。

 植物の芽は地上ならば、どんなに暗い場所に置かれても(光さえ見えない場所)でも、必ず上に向かって伸びる性質をもち、根は必ず下に向かって伸びる性質をもつ。例外は宇宙空間で、重力のない場所では芽も根も横に伸びてしまう。植物が重力を感知していることが解る。

 植物には光を感ずる「フイトクロム」という性質があり、二つの型がある。PV型と、光が当たるとPV型から変化するPFV型であり、後者は光を受けると、背丈の伸びを抑制する性質をもつ。だから、植物の背丈は昼間より夜間のほうがよく伸びる。

 花粉をつくらない突然変異体の杉(「はるよこい」と命名された)が1992年に発見され、もう一種が茨城県で発見、両種とも品種登録されている。日本の杉が花粉を出さなければ、杉花粉に悩む人には朗報となろう。

 花はなぜ美しいのかとの問いに対する正しい答えは(1)目立つことで花粉を運んでもらう虫や蝶を誘うため、(2)紫外線からの活性酸素の害から子孫を守るため、花の色を出す色素には抗酸化作用があり、紫外線の量に応じて鮮やかな色をつけ花粉を守る。

 赤ワインには心臓病を防ぐポリフェノールが含まれているが、これには抗酸化作用があり、ために多くの疾病の予防になる。(葡萄には抗癌性があるとはかねてよりの伝聞)。

 ブルーベリーにはアントシニアンが多く含まれ、目に良いという点では、他の野菜類、果実を凌ぎ、パソコン、携帯電話、テレビなどをよく見る人、車を運転するドライバーなどには無視できない効果がある。

 動物はみずから動きまわることで食料を得、生殖の相手を獲得し、子孫を増やす。一方、植物は光合成しながら二酸化炭素を吸収し、酸素を放出しつつ、一箇所から動かない。その代わりに、花粉を風や昆虫にまかせて種の保存を図る。要するに、植物は動き回らなくてすむような機能を備えている。ところで、現代まで発達、発展してきた科学の力をもってしても、光合成を人工的に創造することはできず、一枚の葉すらつくることは不可能。そのうえ、植物は人間にも動物にも、多くの食料を提供している。(と同時に酸素も供給している。さらに、人間には蟻一匹、ゴキブリ1匹人工的につくることは出来ない)。

 太陽光には赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の7色があるが、植物が光合成のために選択する色は青、緑、赤の三色で、なかんずく青と赤を好む。青と赤を好むということは、この色による光合成によって放出される酸素も多量になることを意味する。

 以上、光合成については、100年以上前にドイツのエンゲルマンによって明らかにされた。

 イギリスのヒルは1937年、植物が成長するためには二酸化炭素を必要とするが、二酸化炭素がなくても、水の酸素原子だけでも酸素を放出することを発見した。 大気中に自動車や船舶、エアコンなどによって二酸化炭素が増えていることは事実だが、もともと大気中に存在する二酸化炭素の量は0.03%しかなく、増えている現在でも0.04%である。(逆説的にいえば、たったそれだけの変化で、地球に環境変化が起こるということ)。

 発光ダイオードが近年大きく取りざたされるようになったが、それは熱を出さないため、消費電力がわずかであること、第二に寿命が長いこと。そのうえ、使われる頻度が高まるにつれ、コストダウンが図れること。代表的な例としては信号機、植物栽培生育工場、クリスマスツリーなどがあるが、冬季、積雪の多い地域では信号機としては使えない。熱を発しないため雪を溶かすことができないからだ。発光ダイオードは冷蔵庫に入れられた野菜類にも光合成を促し、鮮度を保つという効能もある。

 キノコはカビの仲間は、菌糸類に属する。キノコがこれまで原木に頼って栽培したきたのに代わって、オガクズに米ぬかなどの栄養素を混ぜてキノコ菌糸を入れ、育てる手法を採っていたが、ダンボールをシュレッダーにかけ、これに栄養素を混ぜて栽培したところ、栽培そのものには成功したものの、後でシュレッダーにかけたダンボールの廃棄に困った上、ダンボールを作製する企業からもクレームが入り、これを断念したという。代わって、ガラスビーズにを使い、水不足を補うために園芸用の土を加えたが、欠点はビーズが重く、かつガラスが欠けたり割れたりする危険があったこと。最終的に、軽量セラミックを利用することで大量栽培が可能となり、問題は解決され、市場に出回るようになった。

 キノコはカロリーは少ないが、食物繊維やミネラルを豊富に含んでいる。

 動物は骨があることで体を支え、植物はそれぞれの細胞に形を維持する固い細胞壁があって体を支えて立つ。

 植物の遺伝子組み換えは20世紀が残した植物科学分野における最大の技術革新である。

 かつて、「樹木はそれぞれ、みずから形を整えて成長する」とある学者が言ったのが記憶にあり、それがベースとなって本書を手に取る気になった。多くを学ばせてもらった。


前後の記事

現在はコメントを受け付けておりません。

サブコンテンツ