微熱の島 台湾/岸本葉子著

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微熱の島 台湾

「微熱の島 台湾」 岸本葉子(1961年生)著
1989年凱風社より単行本初版
1996年10月15日 朝日文庫より初版 ¥630+税

 1988年に台北から花蓮、1989年に基降(キールン)へと、二度一人旅をしたときのことをベースに体験をエッセイ風に書いたという内容。

 したがって、現今の台湾で日本にかかわるものといえば、漫画だったり、ゆるキャラだったり、アニメだったり、アイドルだったりするのだが、本書では今日からは想像もつかない台湾が描かれている。22、3年の時間が社会というもの、社会を構成する人間というものを、こうも換えてしまうという事実は、台湾にとどまらず、日本自身にも言えそうではあるが。

 同じ頃、私も何度か台湾(といっても台北だけだが)を訪れているが、当時の台湾社会の様相は後進国さながらで、日本からの観光客にものを買わせようという一点に観光業者は注力していた。

 しかし、本書の作者が台湾のあちこちで接し、触れ合った人々との会話の中心、言葉を換えれば台湾の人々が熱心に興味をもった話は「日本」そのものだったという。

 日清戦争後、台湾は日本の植民地となり、日本の教育を強制された島だから、年配の人のほとんどは日本語を話すし、日本の古いしきたりやマナーを知っているが、一方で軍事にも協力を強いられ、憲兵につつかれもした記憶が残ってもいる。

 そのあたりのことが台湾の人々との接触によって浮き彫りになってくるのが本書の特徴、関心があれば読んでみるのも一興。

 ただ、偶然のことだが、昨日は台湾総統の選挙の日で、大陸との関係を配慮する考えの人物が総統に選ばれた。ここ数年のあいだに、台湾を訪れる観光客は中国人が大半という実態、多額の金を落としてくれる。品物も、大陸には溢れるようにあり、ビジネスチャンスも少なくない。中国と台湾いが互いに出入国を認めあったのが1987年だから、それから今日の様相を呈するまで、かなり時間がかかった勘定にはなる。

 かつて、中国が金門、馬祖へ砲弾を撃ち込み、台湾がアメリカの保護のもと積極的に武装に邁進した時代がはるか昔のように感ずるのは私だけではないだろう。尤も、総統選挙の結果は大差での勝利ではなく、多くの台湾の人々は大陸に呑み込まれることを危惧している。

 本書のなかで驚かされたのは、「沖縄は琉球であったが、台湾は琉求であった」という箇所。琉球王国時代に台湾とは格別の関係があったのかどうかは知らないが、戦後しばらくの間、与那国島が100キロ強離れた台湾から物資を運んだ話はよく知られている。


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