歴史の島々/マーシャル・サーリンズ著

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歴史の島々

「歴史の島々」
マーシャル・サーリンズ(Marshall David Sahlins/1930年生/アメリカ人)著
訳者:山本真鳥
法政大学出版局 単行本初版 1993年10月

 著者は現代米国の代表的人文学者、新たに構造主義を打ち出し、歴史を紐解く試みに着手。

 はっきり言って、序文などは何を言おうとしているのか全く理解不能。本書が学術書であることは初めから判っていたが、人文学者を対象として書いた学術書としか思われない内容。

 植民地拡大路線に沿った西欧主義の押し付け、宣教活動、侵害、殺戮、不平等条約などのなかにはペリーとハリスが日本に強いた不平等条約も含まれているわけだが、西欧人が利己主義的な動きから招来された現地人の動きを観察して、「人文学」とか「構造主義の上に立った歴史科学」とか言われても、西欧を世界の中軸においた事象への解説は噴飯ものとしか思えない。

 ただ、多少、内容的に面白いと思ったのは大航海者として有名なクックがハワイを含むサンドウィッチ諸島を訪れたときのハワイ人の、とくに女性のエロティックな誘惑の下り。

 クックは初め、水夫たちが現地人に性病を移すことを恐れ、接触を禁ずる命令を出したが、現地の女どもがエロティックな身振りで秋波を送るため、禁止命令が有効に働かなかったという。10か月後に、現地に戻ると、土地の男数人が船医を訪れ、ペニスの痛みを訴えた。診ると、ペニスは淋病(クラップ)にかかっていて、腫れあがり、炎症を起こしていた。(この下りは、かつて、西欧人が日本にはなかった梅毒を運び込んだ歴史を想起させるが、梅毒の発祥地は南米で、白人たちは南米を植民地としたために自らがこの病気を運ぶことになった)。

 ハワイ人の男たちは「自分たちの方が白人男性より頑丈で健康だが、知性においては白人の方が優れている。そこで、優れた人種の種(たね)を収穫する目的で、島で最も美しい女を数人選んだ。交配は自分らにとって恩恵となり利益にも繋がる」と言って、女を差し出したという。初めは売春の名に値するものではなかったが、贈り物を与えるうち慣習化し、妻を差し出す男には鉄片や鉄斧を、女にはビーズの腕輪や手鏡が贈られた。

 作者は「民族によるキャラクターの違い」を「ハワイのエロチシズムの驚くべき実態。アメリカインディアンのシュー族の戦闘的なキャラクター、同じインディアンでもホビ族の穏健さ」と、一様でないことを記している。

 (それぞれの土地に異なる文化が発生するのは当たり前ではないか。キリスト教徒ほど世界中を引っかききまわし、天然痘を持ち込み、未開の民に己の文化や習慣を押し付け、ビーズごときで土地まで取り上げ、拒否する者を悉く殺した人種はいないのだから。民主主義、自由主義の押し付けは今なおやっている)。

 「ハワイのエリートの子供たちは性愛の技巧に馴染んでいた。女の子たちは陰門を開閉し、股を喜ばせる技術を教えられ、若い首長たちは年長の女性にセックスの手ほどきを受けた。西欧の新教徒宣教師にとっては、驚くべき土地であった。西欧でなら、不義、不貞が、この地では許容されている」

 (欧米の主だった国の主婦の50%近くが不倫を経験しているというデータもあり、西欧の先進文化を過剰評価しているように感ずる)。

 「当時、ハワイの首長の婚姻システムには一夫多妻や多夫一妻の縁組があった。近親相姦も外婚もある。そのうえ、この土地には夫や妻に相当する言葉がなく、男と女に当たる言葉しかなかった。娘が夫をもつとき、首長は娘の処女を破爪する義務があった。ハワイ人にとって性はすべてだった。おそらくは幸せな社会だったであろう。彼らに共通する特徴は人類学の解明を拒否するどころか、西欧の社会思想の限界を暗示している」(娘の処女を奪う権利が父親にあったという土地は世界に必ずしも少なくはなかったのではないか。ドストイエスフスキーの小説にもそのことが書かれている)。

 「一方、フィジー島では、交又イトコ婚のシステムをもつ」

 フィジー島での内乱の様子が描かれ、ニュージーランドでの反乱についても触れ、「人文学的に」どうのこうのと記しているが、もともと西欧人が勝手に入植したから、そういうことが起こったケースが多々あったはずで、西欧人の身勝手さについて触れていないのは、片手落ちとうべきか、白人種を世界の中心に据えた観察といった印象が抜きがたく、この作者の人文学というものには信が置けない。


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