地理から見えてくる「日本」のすがた/佐藤裕治監修

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「地理から見えてくる「日本」のすがた」
佐藤裕治(東京大学大学院地理学系研究科博士)監修 GFC著
中経出版社  2007年4月初版 単行本
副題:楽しく読める100のテーマ

 本書が包括する分野が広すぎるためか、前半部分に関しては学ぶ点が多かったが、後半部分は「ラーメンマップ」「地方の名門校」「高校野球」「風景論」「巡礼論」など、期待しなかった部分が大半を占め、必ずしも、私にとって全面的に面白かったとは言えない。

 とはいえ、学ぶ点、認識を改めた点などもあり、ここではそれらに絞って列記する:

1.日本より南北に長い国土をもつ国は、アメリカ、ロシア、カナダ、アルゼンチン、ノルウェー、中国、ブラジルなどだが、サンゴ礁の海と流氷に覆われる国は日本のほかはアメリカだけ。

 北緯20度から45度まで25度の広がりをもつ領土があり、有人島だけでも20度の広がりをもっている。つまり、日本は北と南の二つの要素が圧縮された位置に存在する。

2.オホーツク海から、冬期、流氷が北海道に押し寄せる理由は、シベリアのアムール川から流れ込む淡水が塩度の濃い海水上に広がるためであり、一方、サンゴ礁は暖流の黒潮が流れているおかげであり、単純に国土が南北に広い範囲で存在するからではない。

3.沿岸から200海里は排他的経済水域と呼ばれるが、上空を飛行機が飛んだり、船舶が航行したりすることは制限できないが、鉱物資源や漁業権利は独占することが可能。また、領海というのは、沿岸から12キロ以内で、領空権、領土権が認められている。日本の排他的経済水域は国土の1.7倍に相当。

4.一般の地図が依拠しているメルカトル図法は1569年にオランダの学者が考案したものだが、地球の楕円を無理に面にして表すため、東京とサンフランシスコが直線上に存在するかに見える。飛行機なら大気圏を北上しつつサンフランシスコを目指すコースを移動するが、これが両地点の最短距離に相当。

5.プレートテクニクスは1960年代に学者により提唱されたもので、地球は卵のような構造をもち、中心部に核があり、周囲は厚いマントルが包み、表面は薄い地殻が覆っている。表面を覆う地殻は一続きではなく、ユーラシア、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ、インド、オーストラリア、南極大陸を含む六つと、太平洋の大半を占めながら大陸を含まない部分の七つの大きな断片に分かれている。それぞれが、毎年数センチずつの速度で移動しており、これらが火山帯や地震など活発な変動帯を形成している。

6.プレートテクニクスの考え方に依れば、東北日本がアメリカ大陸に連なる北米プレートに含まれ、太平洋プレートがその下に沈み込み、境界には千島列島、カムチャッカ海溝、日本海溝が形成されている。(カムチャッカには火山が多く存在する)。

7.一方、西日本境界はユーラシアプレートに含まれ、フィリピン海溝プレートがその下に沈み込み、南海トラフ、南西諸島海溝が形成されている。日本は四つものプレートがひしめきあうという地球上でも稀な地域である。(フィリピンにも火山が多いが、なかでもピナツボ火山は有名)。

8.日本の河川を初めて見た外国人は、これは「川」ではなく「滝」に近いとの感想を漏らしたというが、国土が狭い上に川が多く、国土の大半が山で覆われているために、川が短いというだけでなく急流となることを示している。年間の最小流水量と最大流水量との差から、急流度を調べる手法があり、たとえば欧州のドナウ川は4であり、ライン川は18であるのに対し、新潟の信濃川は117であり、日本の川のほとんどはこの数値が高く、江戸の昔から治水には各藩が苦労してきた。

 降水確率の高さが半端でなく、その事実は川の流す土砂の量にも結果し、これを「侵食速度」という。エジプトのナイル川では年間1kmあたり13m2だが、日本の利根川では137m2、富山の黒部川では6872m2にも達し、黒部では1千年間に7メートルの土地が削られるという。日本では、国土に降った雨はどんな場所からでも2日間もあれば、ほぼ全量が海に流れ落ちていく。侵食速度を制御する方法の代表がダム。(ダムには日本の固有種魚を絶滅させ、遡行すべき魚の遡行を邪魔する、緑地を喪失する、河川の生態系を変容させるなど、デメリットも多い)。

9.日本には6852の島があるとは海上保安庁の調べだが、これには北方4島も含まれている。(島の数が最も多いのは沖縄県ではなく、長崎県)。

10.活火山とは過去およそ1万年以内に噴火した火山、または噴気活動の活発な火山とされていて、これは国際基準に応じた気象庁による定義で、日本には世界の活火山の10%を越える108の活火山がある。かつては「死火山」「休火山」という定義づけもあったが、今日ではほとんど死語となっている。

11.日本の国土の3分の2は森林、日本より森林率の高い国は熱帯雨林に恵まれた熱帯地方の10か国で、スリナムやニューギニアなどは森林率が90%を越えている。日本は66.2%だが、温帯に属する国ではナンバーワン、この特異な現象は降雨量の多さであり、植物の種類の多さという点では群を抜いている。(伐採した後の植林に杉ばかりを使わぬ配慮があったら、元々在った種類を維持し、花粉に悩まされることもなかっただろうに)。

 日本の自然保護は、国立公園28、国定公園55、都道府県立自然公園300余があり、国立公園だけでも国土面積の5.4%を占めている。

(伐採と植林の習慣は江戸時代から続いているが、我々が現在使っている使い捨ての箸はほとんどが中国製であり、過去、他国の森林を伐採させてきたのは日本であり、現在では日本と中国が競合して発展途上国の森林を伐採させている。尤も、現在でも、世界の4分の1の木材は日本が輸入しているが)。

(使い捨てでない箸を置くようになったレストランが最近になってちらほら出てきたが、コンビ二、スーパーのほとんどは現在でも使い捨ての箸を提供するし、客もそれを当然のように受け取る習慣を直そうとしない。口ではエコ、エコと言いながら、温暖化対策に真剣味のない国民性が匂ってくる)。

12.世界遺産は「文化遺産」と「自然遺産」とに分類されるが、2006年現在で、世界の文化遺産は644、自然遺産は162であり、日本の文化遺産は10、自然遺産は3が登録されている。

13.地球の自転、公転は日本の四季をはっきり表現する。つまり、いながらにして、一年のあいだに熱帯から寒帯までの気候を体感できる。(この事実が、平安朝以来、和歌や俳句に繋がりをもち、花鳥風月の文化を形成した)。

14.日本の降雨量は年平均1700-2000mmで、世界平均の二倍。ところが、一人あたりの降雨量で計算すると、世界平均の4分の1、利用可能な水資源だけに限れば、世界平均の半分以下。(なんとかせんければ、あかん部類に入る深刻な問題。飲料は食材と並び、いずれ世界的に大きな問題と化す可能性を秘めている。(尤も、海水を真水に変える技術が日本では確率されており、少なくとも、わが国が他の国に先んじて水の飢饉に襲われるリスクは回避できるだろう)。

15.観測史上、日本国内の1日あたりの最大積雪量は新潟県、高田で175センチ。世界記録はアメリカ、コロラド州の193センチ。豪雪地帯は日本の穀倉地帯でもある。

16.ヒートアイランド現象は都市部に集中。温暖化によるもののほか、冷暖房、工場、自動車の廃熱、道路の舗装、緑地の減少、下水道の発達、ビルの乱立が原因。緑地面積は大阪が6%、東京が29%、名古屋が25%で、大阪の年間平均気温は高く、夏だけの比較でいえば、最近では沖縄の那覇よりも高い。(最近の紹介では、ビルの屋上に緑を植え、ヒートアイランド現象の軽減を図るようになっている)。

17.プレートの沈み込みによる大型地震が日本に頻発するが、他に活断層による直下型の地震も少なくない。阪神・淡路大震災は直下型であった。

18.東日本、西日本の違い、区分は旧石器時代に遡(さかのぼる。出土した石器ナイフの形が、東日本で細長いのに比べ、西日本では横長の形で、互いに生活のありようの違いを示唆している。これは主に動植物の生態系の相違によるものと考えられる。

19.産業別人口の推移:第一次産業(農業、漁業)は1950年には全就労者の48.3%を占めていたが、外国からの安い農産物の輸入によって2000年には僅か5%に落ちこみ、逆に1950年代に30%に満たなかった第三次産業(サービス業、小売業、卸売り業など)は2000年には65.5%を占めるに至っている。第二次産業(製造業、建設業など)は1950年では21.9%だったのが高度成長による急速な工業化や社会資本の整備の進展により1970年には34%まで上昇拡大したのが、急激な円高を背景とした生産拠点の海外移転が空洞化現象を起こし、2000年には30%を割り込んでいる。

 農産物の自給率は、アメリカとフランスが100%を越している。

20.日本に居住する外国人は1990年に88万人だったのが、2000年には131万人と増加。(今後も増え続けるだろうし、犯罪も増えるだろうが、少子化&老齢化社会を救うには外国からの移民が必須)。

21.漁業による日本の水揚げ量はピーク時には1125万トンだったのが現在では475.3万トンと落ち込んではいるものの、それでも世界漁業では世界第三位を維持している。ハマチやギンサケに代表される養殖漁業は年間130万トンに達し、小売店に並ぶ魚介類の30%以上に達している。

22.かつて世界第一位を誇ったパソコン製造も、現在では中国が第一位で、日本は中国の10%、第二位の台湾に比べても、6分の1に相当する量しか製造していない。日本が依然として世界に水をあけているのは、産業用ロボットと町工場による精密部品。

23.石油の代替燃料の一つとしてメタンハイドレードが脚光を浴びている。生物の死骸が分解してメタンガスとなり、それが低温、高圧の状態で固まったもので、日本近海には国内の天然ガス消費量の100年分に相当する量、約7兆4千億m3が埋蔵されており、硫黄や窒素酸化物の排出が少ないクリーンエネルギーとして期待されている。経済産業省の手で、2006年までに近海での産出量調査を終え、2016年以降の商業実用化を目指す計画が進められている。

24.自販機は喫煙や飲酒に寛容な国柄を反映して、世界一の自販機大国になっている。

(理由は寛容なだけではない。根底に人の善意を信ずる心根があるからだ。人家から遠距離の場所ですら、自販機が肩を並べているところもあり、窃盗や破壊を懸念していない。もう一つは、居住地域ですら、タバコや酒の自販機を置く無神経さ。日本の銀行が外国人居住者や暴力団のマネーロンダリングの格好の場になっている事実も、振り込め詐欺がどんなに警告してもなくならないのは日本人だけが持つ甘さというしかない。中国産の食材のチェックがいい加減なのも、中国側の安全だというマークを鵜呑みにする甘さであり、こういう甘い国は日本以外には存在しない)。

25.観光は1960年以降、可処分所得の増大にもより、観光事業は発展を遂げ、年間1000万人が海外旅行をしている。

(他国には日本の大手旅行業社のような規模のエイジェントは存在しない。日本人は英語が出来ないというコンプレックスで、単独での旅行に尻込みし、大手旅行社に依存する体質があり、おかげで旅行業者はそれなりの収益を上げることが可能となっている。日本人は内弁慶、外猫。たとえ英語ができたとしても、英語が通じない国は幾らもある。その点、白人は単独でも、平気でどこにでも出かかていく。私の周囲にも、日本人だが、海外へは常に一人での旅を楽しんでいる人がいる。全く知らない土地に、一人ぽつんと立ったときの快感がたまらないそうだ。しかも、行き先がアイスランド、スウェーデン、クロアチア、チュニジア、モンゴル、ヴェトナムの奥地、トルコ、ウズベキスタンと、いわゆる先進諸国を意図的に避けている。こういう旅行は旅行業に従事している人間でも、尻込みする)。

26.高速道路網は6900kmを超え、さらに建設されているが、自動車を世界に売りまくっている国としては、100台あたりの高速道路の使用キロ数は欧米の半分以下、後続の韓国にも抜かれている。

(これは、かつて、将来を見据えつつモータリゼーションの実態をアメリカに視察に行った国会議員、県議会員、市議会員が旅行社に金を儲けさせただけで、みずからは見たというだけで何も考えていず、すべてを官僚まかせにしたツケであって、官僚らは自分たちの天下り先をつくることを第一の目的として高速道路を建設したからだ。今頃になって「第二東名」を建設するなど、明らかに、彼らの底意地を感じざるを得ない)。

(アメリカには1960年代には既にフリーウェイが存在したが、日本にはいまだにこれがない。EMCをもっている人だけフリーにするという案が出ているが、時折しか高速を利用しない人にはなんの割引もないというのも、納得しがたい政策だ。だいたい、高速を無料にしたら、運送業者は渋滞にはまりこみ、JRも、航空各会社も収益減と闘うことになるだろう)。

27.北日本は日本酒、九州は焼酎、国産ウィスキーは東高西低、沖縄は泡盛。ビールは全国版。

28.日本の鉄路最高時速は山梨のリニア実験線による581km/Hで、トンネルの最長は青函トンネルの53,850mで、これは世界最高。トンネルの建設費は6890億円。一方、瀬戸大橋の建設費は1兆1338億円だった。(裏舞台では談合と賄賂の応酬があったであろう)。

29.日本の面積は世界の0.3%に過ぎず、人口は世界に占める割合が2.0%、面積は世界の独立国192か国のうち60位だが、人口では10位。

(国土が狭いというだけでなく、山地が多いため、人間が一部地域にひしめきあっている実態が、駐車禁止地域ばかりをつくる日本の一大特徴。私が居住している都市公団では、友人知己や親戚や兄弟や子供が車で来ても、車を駐車しておくスペースがない。こんな先進国ってあるんでしょうか)。

30.能登の商人が北前船を開発したのが1825-45年頃、北海道から富山、鹿児島まで各地の産物を運んで売買した。

(実際には、これが北海道の昆布をビタミン不足に悩む琉球王国にまで運ばれていた事実に本書は触れていない。沖縄は現在でも昆布の消費量は第一位であり、すべて北海道産に頼っている。これに介入してしこたま儲けたのが薩摩であり、琉球が中国から持ち帰った漢方薬を富山藩に昆布と引き換えに渡したのが、富山の薬売りのスタートだったのではないかと、私は推察している)。

§§§

 本書が解説の対象にした分野は広いけれども、事実を述べるだけで、きれいごとに終始している印象がときに不快。

 また、近隣諸国との関係、将来の関係のあり方への言及、グローバル化そのものが変化しつつある今日、新たなグローバル化とはどうあるべきかなど、世界のなかの日本というアングルからの考察もなく、そうした期待をすると裏切られる。

 ある外国人宣教師が「日本地図を見ていると、これは狡猾なトカゲに似ている」と発言したことへの反論、異論も期待したが、これに言及することもなかった。


前後の記事

現在はコメントを受け付けておりません。

サブコンテンツ