ジョゼと虎と魚たち/田辺聖子著

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「ジョゼと虎と魚たち」  田辺聖子(1942年生)著
1987年1月10日 角川書店より文庫化初版  ¥476+税

 この作家の作品は、10年前に「ひねくれ一茶」を読み、一茶を書くうえでこの作家ほど適切な人はいないと思ったほど、一茶が生き生きと描かれていた。以来、「大阪の騒々しいオバハン」というイメージが私の中で払拭された。

 一茶とは、たとえば、「やれ打つな、蝿が手を擦る、足を擦る」などの句で有名な江戸時代に生きた庶民派俳人である。

 同作者の作品に再び出遭ってみたいと思っていたところに、面白いタイトルの本が目に入り、思わず手にとったのが本書。内容は九つの短編が収められ、そのうちの一編がタイトルになっている。

 どの短編にも共通するのは、女の心理の微妙な綾を、ときに狡猾さを、ときに哀切さを、ときに二重人格的な側面を、巧みに描ききり、さらけ出しもしていて、女性を描く点でも、他の作家とは比較を超えた特質、才能に恵まれていることを認識した。

 ただ、私には「同棲」が常識的な言葉になっているところを、「共棲み(ともずみ)」という言葉を使っていることに気づいたとき、しばらく目が釘付けになったことで、時代や地域の違いによる影響の有無を確かめられぬまま読了してしまったことが残滓のように脳裏に残っている。


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