キス/キャスリン・ハリソン著

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「キス」 キャスリン・ハリソン(Kathryn Harrison)著
新潮文庫

 父親に娘としてでなく女として扱われてしまう話。

 「近親相姦」という言葉を想起させるが、激しく陰鬱なエロスを想像すると裏切られる。散文詩的な流れのなかで、読者の卑猥な期待は打ち砕かれる。

 これはエロ本ではなく、純文学。
 かろうじてエロスを感ずるのは、20歳の娘が父親を空港に送っていったとき、父親にハグされ、頬や額だけでなく、唇を奪われ、ついには舌を口の中に入れられるのを、娘が腰を引いて受ける場面。

 作者の「非常に苦労したであろう」表現に脱帽。トリックに遭ったような印象がむしろ爽快。そして、なによりも、文章が爽快で、いやみがないのが著者の文体の特徴。

 父親が娘を犯す歴史は古今東西にあり、その事実が一人の女性を心理的に追い込み、精神に異常をきたし、アルコールや麻薬依存に陥れてしまうことがあり得、こうした犯罪が最近になってアメリカなどでは女が口を閉じずに暴露されるようになった。暴露せずに我慢している国の女はわが国をはじめ、わずかではないだろう。


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