血のキスをあなたに/ステラ・キャメロン著

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「血のキスをあなたに」 ステラ・キャメロン(イギリス生まれアメリカ在住の女性)著
二見書房 2005年1月文庫化初版

 

 作者はこれまで60冊以上のロマンティック・サスペンスを書き、トータル800万部を売っている人気作家。

 概してだが、アメリカ人小説家の文章づくりには、意図してかしないでか、できるだけ無駄な言句を省き、起承転結の流れを読書に強くインプットするという姿勢が欠けているように思われる。

 想像が膨らむままに筆を走らせ、作品に仕上げている感が深く、ために、読者をして、しばしば混迷に誘いこんでしまう。

 タイトルに惚れて(といっても原題は「Kiss them goodbye」という、「やつらにキスしてバイバイ」といったような日本語のタイトルとはちょっとニュアンスが違うけれども)、以上のような印象のもとに4分の1あたりまで読み進めたためかも知れないが、外国小説家による片仮名の姓名をもつ人物たちのそれぞれのポジショニングがうろ覚えになり、明確さを欠いて、次第に苛々、疲労、辟易感に襲われた。

 なかで印象深いのは、セックスプレイの描写で、ことに大人の娘のいる中年女性と再婚した男をめぐっての母娘による三すくみのセックスはサスペンスというよりポルノチックに過ぎ、作者の趣向、嗜好、(あるいはサービス精神かも知れないが、)が感じられ、553ページにおよぶ分厚い文庫本の白眉となってしまった感が拭えず、この部分のためにこれだけの文章量が必然だったのかという疑問に結果した。

 本サスペンスにも二つのストーリーが同時並行に進行しているが、さいごのドンデン返しは懲りすぎ。

 訳者によれば、「盛りだくさんの贅沢なロマンティックサスペンス」との評があるが、盛りだくさんであることがむしろ盛り上がりに欠け、アメリカ国籍をとった作者の文学的知性に関して納得できないものを増幅させているのではないかとの疑義を否めない。要するに、作者は書きすぎている。

 一つだけ新たに発見、学ばせてもらったのは、アメリカ人の「他人のプライバシーには口を慎む」というマナーが嘘くさく感じられるほど、本書の登場人物らは周囲の他人事に嘴(くちばし)を入れ過ぎることで、私のアメリカ人観をくつがえすほど、まるで別の国民性に接している思いだったことだ。


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