びわこ 水中考古学の世界/滋賀県文化財保護協会編

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琵琶湖 水中考古学の世界

「びわこ 水中考古学の世界」 (財団)滋賀県文化財保護協会編
2010年1月20日 サンライズ出版 初版 単行本 ¥1800+税

 「琵琶湖」の名を目にして、とっさに思い出したのは、かつて琵琶湖について色々な話をしてくれた元滋賀県警察機動隊隊長の初代水中班を担当した知己だった。

 湖岸のビーチには夏になると湖水浴客が淡水の感触を楽しむために賑わうのだが、毎年溺死する者が出、その都度、必死になって必ずしも透明度、透視度ともによくない水底で遺体の探索をしたこと、在職中に60体余りの遺体を揚げたこと、水底からはときに昔使われた瓦、陶器、磁器、土器などが発見されることなどを話してくれた。

 なかでも、土地の古老のなかには「戦国時代には湖上が合戦の舞台になったこともあったに違いなく、湖に落ちた武将らは鎧、兜の重さで浮くことができず、そのまま湖底へと落下、溺死した可能性があり、琵琶湖は水深が100メートルを超すところもあるため、そういう深みに落ちた武将らはいまでも肉体が腐ることなく、いわば死蝋(しろう)と化したまま湖底を彷徨(さまよ)っているに違いない」と話す人もいて、そうした場面を当時よく想像したものだと。

 そういう話に想像を逞しくしたのは知己だけでなく、話を聴いた私も引き込まれ、以来、忘れられない話として脳裏に居座っていた。

 ひょっとして、本書のなかにそういう話が逸話として出てくるかなとも期待し、手にとってみたが、残念ながらというべきか、当然ながらというべきか、本書は真面目に湖岸各地に集落をつくっていた縄文時代の人々や弥生時代の人々が残した遺跡を中心に出土した品物についての説明にページを費やしていた。

 なかでも、「烏丸崎遺跡では弥生時代中期を中心に、この時代に多く見られる方形周溝墓と呼ばれる墓群が100基を超えて発見された」という話、「湖南、湖北、湖西の三地域における遺跡がことさら多く、水深2-3メートル付近に拡がっている」という話には、水中考古学の対象が水深100メートルを超えることなどあるわけのないことを次第に納得した。もし、深みにダイバーが入るとすれば、おそらく「飽和潜水」(深みにおける高い気圧を想定した準備で、英語で「Satulation」という)をするしかなく、そのうえ場所が湖の深みであれば、透明度の良さは期待できず、調査は難航するだろうことも予測できる。

 とはいえ、「縄文時代の集積遺構が水深80メートル以上から出てくるエリアは地震などのために突然陥没した可能性がある」との説明には、その水深を手のうちに入れていたことも理解される。

 本書は昔の人間の食料が季節によって異なることと併せ、その内容を明かにしている。「春から夏にかけカラスガイ、シジミ、タニシなどの貝類のほか、鯉、フナ、ナマズ、スッポンが主だった食料であり、秋にかけてはクルミ、ドングリ、ヒシ、クリ、冬にかけてはトチ、カモ、シカ、イノシシだったことが判る」と。

 本書はひたすら学術的であり、ひたすら真面目であり、ひたすら地味でもあり、海外の水中考古学で採り上げられるカリブ海や地中海のような「海賊船が転覆したあとに金銀財宝があった」とかいう派手で、世界中の関心を惹くようなことはないだろうが、沖縄県の与那国島海底に存在する人の手が加わったとしか思えない形のものが横たわる素材を別格として、日本における水中考古学としては琵琶湖がナンバーワンの地位を保っていることを確認した。

 一方、琵琶湖はアフリカのタンガニーカ湖やロシアのバイカル湖と並んで成立が古く、いわゆる古代湖に分類される湖であることをネット検索により知った。


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