旅に出よう/近藤雄生著

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旅にでよう こんどうゆうき

「旅に出よう」  近藤雄生(1976年生/ライター)著
副題:世界にはいろんな生き方があふれている
帯広告:旅に出て、ぼくの人生が変わった
2010年4月20日 岩波ジュニア新書初版 ¥820+税

 本書には、「先進国、途上国を問わず、あちこちを旅することに危険はない」との断言があるが、それはやや無責任な言い過ぎではないかという気がする。

 作者がルポライターを目指している以上、平均的な海外体験では雑誌に掲載されたり出版の対象になるはずもなく、作者自身がリスクテイカーたらざるを得ない。作者と同じ体験を一般の日本人に求め、「旅に出よう。旅に出れば人生が変わるよ」と誘うのはいきすぎであり、もし誰もが作者と同じようなレベルでの旅を経験できるのなら、本書自体が世に出ることはなかったはずで、皮肉なことになってしまう。

 したがっては、作者が志向するものと、本書のタイトルや副題は互いに矛盾、撞着しているといわざるを得ないが、本書に書かれている内容は明らかにノンフィクションであり、稀有の体験も含まれ、むかし沢木耕太郎が書いた「深夜特急」とは時代的にも内容的にも異なる面白さ、痛快さがあることも事実。

 作者の大胆な性格と、真摯で清々しい姿勢が、やや幼さが感じられる文章からも窺われ、旅を職業とし、外国に長期滞在した経験もある私にも初めて知ったことは僅かではなく、本書に出遭えたことは幸運だったと思う。

 アメリカやイギリスで日曜日に教会に行かない人が大半を占めるということは知っていたが、「イスラム原理主義の徹底したイランで、礼拝に参加しない人がほとんど」という話に驚愕させられたのも初めて知ったことの一例。

 ただ、日本という国は島国であり、ほとんど単一民族であるため、社会が「性善説」にベースしているのに比べ、外国の大半は「性悪説」にベースしていることは知っておいたほうがいい。海外で詐欺の対象に選ばれるのは決まって日本人である。アメリカなどは、知らない他人とかかわることを可能な限り避ける傾向がある。

 外国人が日本に来て感ずることの第一は「社会が安定し、街がクリーンで、品物の質が信頼できる」こととあわせ、「人々は親切で鷹揚ではあるが、治安の良さが社会全体に犯罪に対する甘さを招いている」ように感ずることだ。

 たとえば、途上国では公衆電話や自販機などが存在すれば、間違いなく壊されているし、先進国を含め、ATMというキャッシュの入った構造物がブルトーザーで持っていかれるようなことは外国では起こらない。つまり、キャッシュや、それと同等のものを扱う場所や構築物は事前に危険を配慮して造られるのが当たり前。

 外国で働く機会を得ても、自身が母国で育んだ常識が100%通ずることはないことを覚悟すべきだし、そのほうが安全に暮らせる。

 (もっとも、最近の日本社会には「人の性は善なり」とは到底思えない事件や犯罪が起こるようになっていることは認識している。日本国内に居住する外国人が増えていることも無関係ではないだろう)。

 一方、キャッシュの入った財布を落として、それがそっくり本人のもとに返ってくる可能性が少しでもある国は日本以外にないことも事実である。

 私自身、イトーヨーカドーで買い物をしたあと、駐車場で財布の入ったバッグをカートの上に置き忘れたことがある。財布の中には、翌日からアメリカのラスベガスに旅行するために銀行で交換したばかりのドル札で3千ドルと円で30万円がキャッシュで入っていたし、パスポートも運転免許証も各種カードも入っていた。

 駐車場を出てすぐにバッグを忘れたことに気づき、慌てて戻ったが、駐車場にカートはあったものの、バッグはなかった。即座に「落し物・忘れ物コーナー」に足を運び、バッグの色を告げつつ、届けられていないかどうか尋ねたところ、「ほんのちょっと前に届けられてます」との返答に安堵というより、ほとんど感激してしまい、あらためて「日本に生まれてよかった」と思ったものだ。

 届けてくれた方には連絡をとって感謝の意を述べ、謝礼を送った。


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