環境問題のウソ/池田清彦著

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「環境問題のウソ」  池田清彦(1947年生)著
副題:科学的見地から正論を斬る
帯広告:京都議定書を守るニッポンはバカである
ちくまプリマー新書  2006年2月初版

 読みはじめて、何をこの作者ばバカなことを言ってるのかと不審と反論ばかりが脳裡を去来したが、時間を置いて暫く考えるうち、そうとばかりは言えないかも知れないと、初めから読み直してみた。

 作者は早稲田大学国際教養学部教授、専門は理論生物学、構造主義生物学の地平から、多分野にわたって評論活動を行なっている人物。

 「地球温暖化脅威論は地球規模のマインドコントロールである」との根拠が、以下のポイントをもって示される。

1・ここ1世紀、世界各地の気温は地域により上下があり、不変があり、上昇しているのはコンクリートで固められた大都会に集中している。

2・人口衛星による測定でも、上昇の気配はない。

3・千年単位でみれば、気温の上下は今も昔も同じようにある。古文書によれば、10-12世紀は暖かかった。また、10世紀のグリーンランドには、現在は氷に閉ざされているが樹木が生えていた。(同地には大量の石炭が埋蔵されている)。

4・上昇しているにしても、地球の気温がもつ自然のサイクルの一環の可能性、温暖期と氷河期の相互関係に影響されている可能性がある。

5・サンゴ礁は炭酸カルシウム中の酸素16&18の比を調べると、ニューカレドニアでは陸上と水中とではパターンが一致しない。

6・5千年、8千年前の気温は暖かく、現在より3度Cも高い。過去600万年くらい前までの気温は、以降、下がり気味で、ここ数百年単位でみるなら地球は寒冷化している。

7・地球の平均気温は1940年から1970年までの30年間に、0.2度C下降したのに対し、CO2の濃度は310PPMから325PPMまで急激に増大。全世界の年間炭素排出量は1940年には10億トン、1970年には40億トンという数値から推して、地球温暖化にはCO2以外の要因も働いていると考えるのが妥当。

8・温室効果のせいでCO2の人為的排出が温暖化をもたらしたところで、温室効果ガスは地球の放射熱の一部を吸収するものの、水蒸気が90%を吸収する。CO2はとくに温室効果に貢献はしていない。

9・地球温度は地球に入ってくるエネルギーと地球から出ていくエネルギーのバランスで決まる。温室効果ガスは出ていく熱をブロックする。その割合が多くなれば、温暖化するが、地表から出ていこうとする熱の95%以上はすでに存在する温室効果ガスでブロックされ、地表方向に再放出される。飽和状態に達すれば、温室効果ガスがどんなに増えても、それ以上は温暖化とは無関係。

10.地表に入ってくるエネルギーのほとんどは太陽である。太陽の黒点数と北半球の平均気温は相関にある。太陽活動が地球温暖化と密接にかかわっているのであり、CO2はマイナーな影響しか及ぼすことはできない。

11・世界的にみても、海面水位は変わっていない。ツバルもここ25年間変化はゼロ。タスマニアでは逆に水位は下がっている。日本近海も、僅かに下がっている地域と上がっている地域とが存在する。

12・極地の氷は海に浮かんでいる以上、いくら溶けても問題はない。

13・異常気象、ハリケーン、台風、洪水、竜巻、旱魃などについてはPCCCの報告書で「全体として20世紀を通して気候可変性が増加したという証拠はない」と言明している。

14・植物は太陽エネルギーを使い光合成してCO2と水を原料にデンプンをつくる。その際、温度は若干高いほうがデンプンをつくる速度は上がり、生産性に寄与する。つまり、地球温暖化があっても、穀物生産量には影響しない。

15・環境危機を煽れば、経済成長率は減速する。慌てて化石燃料を廃止する必要はない。石油、ガスが価格上昇を続ければ、いずれ、代替エネルギーが化石燃料の価格を下回って、黙っていてもCO2の排出量は減少する。

16・京都議定書によれば、これが発効すれば、日本は2012年までに6%の削減をする。EUは8%、カナダは6%。議定書の通りやったとしても、100年後の気温上昇をほんの6%遅らせる効果しかない。焼け石に水である。このために、日本だけで毎年1兆円から2兆円を、全世界では20兆円をムダに使うことになる。国民の税金をドブに捨てるようなものだ。

 以上が作者の言う骨子だが、いまいち説得力に欠ける点は、

 (1)過去一世紀足らずの間に世界の人口が中国、インド、ブラジルなどを中心に倍増していることで、たとえば、中国人の半分が自動車を所有し、化石燃料を使ったとして、それが地球温暖化に、環境の異常な変化に結果しないのかどうかという点について、納得のいくような解説がない。また、中国人がまともなウオッシュトイレを使い、紙を使うようになり、ために森林伐採が発展途上国でさらに進んだ場合に関する言及がない。

 (2)中国を中心に産業廃棄物を河川から海に垂れ流している事実から、これが近隣を含めどのような影響をもたらすかについて言及されていない。大陸の海岸沿いにはすでに赤潮が恒常的に発生している。

 (3)南極に近いオーストラリアで問題となっているオゾン層の破れについての言及がない。

 (4)本書は2005年の初版であり、それ以後に起こった自然災害、(例:カリブ海のハリケーンの猛威、日本を襲う台風が従来より強くなっている事実、インド洋のサイクロンも同じく強くなってバングラデシュ、ミャンマーを襲ったし、土砂災害が増加している事実、アメリカの竜巻件数が増えている事実、ツバル共和国は25年間変わっていないといっているが、今や土地のあちこちから海水が浮き上がっている事実、オーストラリアの旱魃は従来の状態に比べ、現実にひどくなっている事実、中国の西部の砂漠化と黄砂の量が半端でなくなってきた事実、アメリカ人のなかにも温暖化を憂慮する人々が増えつつある事実)など、この3年足らずのあいだに状況変化が起きていることが本書には網羅されていない。

 (5)北極海に浮かぶ氷が溶けて水になり、水面を上昇させるという意見が蔓延しているが、それに対する反論がない。氷は浮いているから大丈夫だなどという話では、納得できない。

 (6)ドイツ人が熱心なのは、彼らの森が酸性雨で白化現象を広範囲に起こした経験があるからだが、酸性雨についても触れていない。

 (7)サンゴ礁をニューカレドニアに限って触れているが、世界には沖縄を含め、幾らでもサンゴ礁が存在し、いずれも酸素を海中に吐き出して、水中の酸素濃度の安定に寄与しているが、あちこちのサンゴ礁が現在白化現象を起こし、かなりの海域で死滅している現状にも詳しく触れるべきだった。

 (8)世界には何万という数の河川があり、最近では豪雨の後に、土砂崩れのみならず、土石流が発生、いずれも海に運ばれ、それが海水水面にどう影響するのかにも言及していない。

 (9) 「アメリカの科学者は利口だから、ブッシュに議定書にサインしないよう助言した」というが、戦争に勝つには化石燃料は必須であり、アメリカ・コロラド州には中近東の石油の総量に匹敵する石油が眠っていると仄聞する。アメリカは他国の石油を使い果たした後のことまで考えているだけで、これは単なる軍事的な戦略に過ぎない。しかも、ブッシュの票田は油田をもつテキサス州である。大統領が変わった後の、アメリカの議定書に対する姿勢は変化する可能性がある。

 (10)Opecが輸出を制限して以来、ここ半世紀に、米国をはじめ西欧先進国は各海域で、海底石油探査をスタートさせたが、発見されたプラットフォームからは汚染物質が海中に投棄され、海底ではカドミウムなどを含む汚染物質が山をなしている。さらに、採取された原油はタンカーで輸送されるが、この間に沈没、海中に流失した原油はかなりの量に昇っている。これらの環境破壊がどれほどの害を海中を含めた地球全体にもたらしたかについても、本書には説明がない。

 本書には上記テーマのほかに、「ダイオキシンで大騒ぎし、マスメディアがこぞって危険だ危険だと叫び、ついには立法化までされ、これに莫大な税金が使われたたが、実際にはダイオキシンで病気になった人も死んだ人もいない」ことに触れ、メディアがセンセーショナルに採り上げた無責任さを指摘、ダイオキシンに比べたら、アスベストの被害のほうがはるかに強烈であるとの指摘、これは、いずれにも反論はない。1995年頃に、バリ島を訪れた日本人が合計500人ほどがコレラに感染したとの報道があったが、伝染病にこれだけ多くの人間がかかりながら、1人として死んだという報道はなかったのに似ている。

 さらに、作者は「外来種」に言及し、日本人が日本の固有種を守ろうとするあまり、外来種を鬼のように憎む姿勢も、マスメディアに躍らされ、裏舞台では、そこに利権を確保しようとの意図が見え透いているという意見にも異論はない。ことに、「自然のことは自然の営為に任せておくことで問題はない。むしろ、固有種をこれまで数多く絶滅してきたのは他ならぬ日本人自身ではないかとの指摘にも頷くほかはない。ただ、自然環境破壊については明らかに人為的なものがからんでいる。

 「外来種を遺伝子汚染の産物」だというのは、それならトキのことはどうなんだ? トキは結局絶滅してしまい、後日になって中国に依頼、数羽のトキを貰い受けたという過去がある。早めに中国トキを入手、日本トキと交配させておけば、雑種ではあるが、生き残る可能性は十分にあったとの言葉は当を得ている。外国からの動物を遺伝子の汚染というなら、外人と結婚する日本人は遺伝子汚染に加担することになるのか。

 外来種をすべて排除しようというのは頭の中の妄想に過ぎない。そんなことをすれば、日本に残る生物種はきわめて貧弱な数になるだろう。だいたい、数百年前から、日本には外来種がたくさん入ってきている。ブラックバスやアメリカザリガニにみならず、コスモスもそうだし、松竹梅も例外ではない。猫ですら中国からの外来種であり、鼠が増え、ペストが流行したころ鼠を捕ってくれる家畜としては値が高く、飼った人は放し飼いにはしなかったそうで、江戸時代、犬公方で名高い吉宗が放し飼いを奨励するまで綱で結ばれいていたという。

 環境省は環境を守る振りをする役所であって、環境を守る役所ではない。いい例が東京近郊の高尾山にトンネルを掘って、首都圏中央連絡自動車道をつくる企画である。東京近郊にはすでに僅かにしか森林地帯は残っていないというのに。あの「環境について深い関心を表明したことのある」小池百合子大臣までが、最近では、この問題では知らん顔を決めている。

 「税金を使って自然保護をやっているうちは、自然保護はだれかの利権でしかない」。

 本書はテーマとして採り上げた「環境問題」についてだけ、より詳細に解説すべきであって、ダイオキシンや外来種の問題はそれなりにインパクトがありはしたが、それらの分野とは分けて書くべきだった。この、誰もが重大な危機だと思い込んでいる実態が社会的に、というより世界的に存在する以上、軽く撫でる印象の触れ方は中途半端で、読者を説得する力がない。


前後の記事

現在はコメントを受け付けておりません。

サブコンテンツ