文壇/野坂昭如著

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文壇

「文壇」  野坂昭如(のさかあきゆき)著
2002年単行本で初出。 2005年文庫化(文芸春秋)

 「歌を歌う作家」「キックボクシングをする作家」というイメージが強かった。奇矯な言行で知られたこの作者の顔がTVに映れば、即刻チャンネルを換えたし、この著者の作品を入手して読もうなどと考えたことはこれまで一度もなかった。まともな書籍と呼ばれる本はこの世にいくらでもあるのだから。

 天の配剤というべきか、文庫本にはさまれているチラシにこの本が載せられていたので、手にとってみたくなった。

 はっきりいって、読み始めてしばらくは、ときに主語が、ときに助詞が、ときには目的語が削除されるから、読み手は袋小路に迷いこむ。ところが、次の瞬間、新たな別の話の展開が始まり、暗闇から脱出した安堵感もあって、作者が手招きする前方へと喜んで導かれるといった仕儀が全編に連続する。

 奇矯のキャラに奇矯なテーマと構想、いずれにも常人には近寄れないものがあるものの、それがこの作者独特の癖というべきか、能力というべきか、起伏と凹凸が読者を立ち止まらせ、読後感としては他の文芸作品を圧倒するほどに読者を惹きつける。換言すれば、ぎくしゃくすることが読み手との連携を深めていくのだから、文章を書くということは難しいのもである。ただ、さらさらと上手に書けばよいというものでもないらしい。

 当時の文壇をあからさまに書いてしまう肝の太さもそうだが、おかげで戦後の作家がどう出版業界のなかで生きてきたのかが見えてくる。

 出版業にいる人物が土台、奇人、変人なのだから、そのこと自体には驚きも斬新さもないが、作者の「小説家は埒外の者」との表現は野坂の男らしい覚悟のほどを示している。

 この作者の「火垂るの墓」「エロ事師」(後者はザ・ポルノグラフィー」との名で英訳され、アメリカで刊行されたことには拍手を贈りたい。

 並みの日本人でないことが強烈な印象となって残った。

 天才に、奇矯な言動、自殺というパターンがある。これは払拭して欲しい。

 本書「文壇」は泉鏡花賞を取得したと聞く。


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