小鳥たち/アナイス・ニン著

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「小鳥たち」 原題:Little Birds
著者:アナイス・ニン(1903-1977・パリ生まれ、11歳時米国へ移住)
訳者:矢川澄子(1930-2002)
2003年に単行本、2006年3月に新潮社が文庫化

 

 著者はヘンリー・ミラーとの奔放な愛に生きた美貌の女性。

 真実か否かは判断できないが、本書短編集はヘンリー・ミラーがある金持ち老人の個人的な趣味(コレクション)のために、エロティックな作品を書くように著者に依頼し、14の短編は老人の性的嗜好を勘案しつつ、彼の欲望を満たすためだけの目的のもと、匿名で、秘密裏に書かれた作品だという。そして、著者が晩年になって死期を悟ったとき、これを公表することを決断、世に出た。

 収められた短編はそれぞれ「手を変え、品を変え」というべきか、登場人物の設定にも、構成にも、起承転結にも、いずれにも配慮を惜しむことなく筆を進めた跡が窺われるし、同時に、女性でなければ描けない性的心理描写にも力が入っていることは否定しないが、構成自体に現実性も必然性もなく、小説だからフィクションであってあたりまえとはいえ、いまはやりの「官能小説」と同じような「つくりもの」の匂いが過剰にあって、読了後の印象が希薄。 もう少し刺激的な、どろどろしたものがないと、観念的なイメージで終わってしまう。

 訳者は解説で「典雅で澄明な響きをもつ短編であり、稀有の詩的素質」と絶賛。また、あとがきの三浦しおん氏は「性的な幻想」という言葉で本書を評価しているが、現実離れした性に関心の高い読者には受け容れられるだろうが、荒唐無稽に陥る内容には、部分的だが、退屈で、倦怠感がつきまとう。 私自身に幻想を追う繊細な神経が欠けているのかも知れない。

 ただ、本書の著者も訳者も、すでにこの世の人ではない。ことに著者は日露戦争がはじまる前に生を受けた女性。本書が書かれた時代背景としては30歳で書いたとしても、第二次世界大戦が始まる前であり、「チャタレー夫人」が西欧でも日本でも大騒ぎになった過程を知っている人には理解されると思うが、そうした抑圧された社会的背景などを考慮すると、密かに書かれたという事情も、到底おおやけにはできなかったという社会状況も理解できるし、同時に、スケベ爺さんは今も昔も変わらずにいるのだということもわかるが、内容はおそらくコレクターである爺さんの趣味を最大限に配慮した内容なのであろう。

 はっきりいうが、私個人はこの作品を評価しない。


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