首都圏生きもの記/森達也著

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syutokenikimonoki

「首都圏生きもの記」  森達也(1956年生/TVディレクター、作家、映画監督など多彩)著
2007年4月~2008年12月に「学研教育出版のWEBサイト」に連載されたものを改題、加筆、修正。2010年3月30日 新書初版 ¥740+税

 「都会は人間だけのものじゃない」と帯広告にあるが、それを言うのなら、「地球のすべては」と言うべきだろう。

 動物記とは離れ、作者は元TVディレクターとして、民放TVの競争原理についてプロテクティブな言い訳をしているが、過日の参院選では、日本の全チャンネルが同じ参院選を追っている放映に反吐の出る思いを味あわされた身としては、あらためて反吐の出る思いを味わったことを明記しておきたい。

 先進国で、ある程度のチャンネル余裕があって、このザマというのでは、アジアの先進国を高言する国としては恥以外のなにものでもない。「アジアの日本」という意識が欠落し、トーク番組、お笑い番組、大食い番組、バラエティー番組、やらせ番組、万引き番組、県警の追っかけ番組などなど、どの番組でも同じ低俗な放映をくりかえすこの国のTVに携わる人間のオツムの具合を疑いたくなる。

 私の考えるメディアとは、世界を大きく切り取って、視聴者に見せる、届ける、そういう機器ではないかと思うから、そろいもそろって時間と人件費の無駄を平気でやるレベルの低さに唖然、愕然、慄然というところだ。

 「プラナリア」(淡水魚)はみずから機能性の幹細胞を分布させていて、体の一部を欠損すると、欠損した部分を再生してしまう。その意味で、今しばしばTVで紹介される『再生医療』の先端を行く生物といえ、人の身にも全能性幹細胞は存在するが、その時期は受精から3週間くらいに限定される」という論理はすでに古い。従来難病といわれた機能疾患が患者本人の皮膚から採取した細胞を培養し、1か月後に、培養液を患者の体内に戻すことによって患者の最も弱い部分に働きかけ、かつては胎児の時代にしかできなかった、機能の構築があらためてできるようになるらしい。

 作者が本書の軸から外れたことを語るため、つい読者としても、それにつきあいたくなった。悪しからず。

 「温暖化はアブラゼミを減らし、クマゼミとミンミンゼミを増やした」

 本書の作者はタイトルから想像される内容とはかなり異なる分野にまで話を延ばしているが、私個人はそれはそれで楽しい読み物になっていることを認めたい。

 「桓武天皇の生母は百済の武寧王の子孫であると、続日本紀に記されていることに日本と韓国との縁を感じます」とは2001年に天皇陛下が日韓でワールドサッカーを主催したときに口にした公式発言。百済と大和朝廷とは歴史的に関係が深い。

 「実体化せず、曖昧なままでよかったものも、命名されることで分別され、分別されたがゆえに、人間はそれにひきずられ、拘泥する。命名し、分別することで、嫌悪が憎悪にも敵視にもなる。視点を変えることで嫌悪が解体されることがあり、新たな局面や光景が現れることがある。なぜなら、世界は無限なほど多面で、多重で、多層だから。

 作者のこの言葉は本来の内容とは関係がないが、最も感銘を受けたし、教えてもらった言葉だ。

 「世界中で、日本のカラスほど黒いカラスはいない。口の中まで漆黒。」それは知らなかった。今度外国に行く機会があったら、注意して見てみよう。

 「ハトやニワトリの目はメカニカルで情緒が感じられず、爬虫類的。一方、カラスはその意味でなんとなく哺乳類的な雰囲気がある。カラスの大脳は他の鳥との比較で、重量比でも、脳内比でも、圧倒的に大きな値を示す」

 「東京都が2002年にカラスの捕獲と駆除を行ない、トータル1万2千羽を捕獲することに成功したが、これにかかったコストは1億2千3百万円、1羽あたり約1万円かかった計算になる」

 沖縄のある離島では島全体が牛の牧場になっているが、時期がくると西表島からカラスの大群が島にやってきて、子牛の目を狙って突くという悪さをする。かつて、私の知人は島の牧場主から一年に一、二度は頼まれて、許可を受けているライフルを持参し離島でカラス退治をしていた。カラスの腹黒さをどこで決め付けるかは、東京都だけでなく、他地域からの情報を多く集め、吟味のうえで捕獲・駆除すべきか否かを再考したほうがいいのかも知れない。

 「ヒキガエルは毒液を分泌するから、多くの動物に捕食されることはないはずが、例外がハブの十倍という猛毒をもちながら、長らく無毒の蛇と勘違いされていたヤマカガシ。ヤマカガシはヒキガエルを食ってしまい、ヒキガエルのもつ毒物を自分の体内に溜めて再利用する。」

 子供の頃、ヤマカガシ程度の蛇は周囲にいくらでもいた。無毒だと思い込んでいたため、恐ろしい蛇だと思ったことがない。


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