ロシアの論理/武田善憲著

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ロシアの論理

「ロシアの論理」 武田善憲(1973年生/在ロシア日本大使館書記官経験者)著
副題:復活した大国は何を目指すか
帯広告:彼らの「ゲームのルール」
2010年8月25日 中公新書  ¥740+税

 以下*のついた部分は著作からの抜粋、(  )内は私見。

*ロシアでは、1999年には1日あたり25万バーレルだった産油量が2010年には1日200万バーレルに達している。化石燃料の高騰は最高権力者はもとより、ビジネス関係者、続いて一般国民もが、好景気の恩恵にあずかることを可能とし、これによりエリート層も一般国民も結果として政治的には「去勢」されてしまった。

*機能面でも雇用面でも、社会主義時代の大きな政府をそのまま引きずっているロシアでは、民の活力育成という面で効率のよい政府を求めるような体質ではない。

 (毎年、一定の時期になると、ロシアからチャーター便がバリ島にやって来、ロシア人らはバリ島で売られている小物を大量に買い付けては帰国する姿を見て、ロシアの変化を感じたことを記憶している)。

*個別の省庁が存在しながら、それぞれが機能しないのは機能することを期待されていないからで、すべて大統領府が決めてしまう。本来、自分が選んでつくった省庁であり、トップ人事も大統領が決めたにもかかわらず、民衆の前でプーチン自身が省庁のトップを叱責するなどという体裁からは、それによって大衆の不満のはけぐちにしているような印象が拭えない。ロシア人はもともと受動的で、お上の意向には従う精神状態が続いている。

*今のロシアに、プーチンに対応できる野党は存在しないし、存在し得ない。「将来構想は大統領府が行なうから、企業家は個々の業務に精励し、きちんと税をおさめよ」という言葉がプーチンの口から発せられている。

*インターネット新聞にメドベージェフが大統領になった直後、「ロシア経済は天然資源に依存する原始的なものであり、民主主義は脆弱で、汚職は国民的病気」などと、エリートなら誰もが知っていることを言葉にした。

 (汚職や賄賂のやりとりが国家的文化という以上に恥ずかしげもなくやりとりされる国は幾らでもある。そうした恥を恥と思わぬ国に共通するのは貧である。賄賂のやりとりが恥ずかしげもなくやりとりされる中には、たとえば、インドネシアがあるが、これは「貧」というよりも、スカルノ、スハルト両大統領時代から、公務員給与を少なくしておき、「必要なときは己の立場を利用して不足分を補充せよ」という上からの言葉に従っていた風習が抜けずに今もあると見るのが妥当。日本の政界で、田中、金丸、小沢らがかかわった事件とは質的に全く異なっている)。

*ロシアにとってアメリカが政治、経済、軍事など、あらゆる面で唯一の超大国として君臨することは受け容れがたい。ために、複数の地域と国がそれぞれ多極化し、勢力を均衡させて、バランスをとることを考えたが、ユーゴスラビア問題が勃発したとき、ロシアの意見に耳を貸さず、NATOは手を抜かなかった。

 (とはいえ、シリアのでも騒ぎ、軍隊が出ての鎮圧ではかなりの死傷者が出ているとの報道があるが、欧米に反対して中国、ロシアは拒否権を発動している。シリアはメディアが言うほどのひどい専制が行なわれているわけではないとの意見もある)。

*ウクライナもカザフスタンもグルジアも、ロシアとの関係は表面的には外交領域に位置づけているが、ロシアの指導層の行動パターンを見ていると、旧ソ連諸国はロシアの影響圏との見解が公式に表現されること自体、常識的な国家関係からはほど遠い証拠であり、三国ともにロシアに同調していない。

*冷戦後、ロシアとヨーロッパとの関係は相互依存度が高まっているが、米露間ではたがいを不可欠なパートナーとしては認識していない。また、対ユーラシア外交の利害関係は相互に対立している。

*欧米的な価値、とくに自由民主主義や市場主義経済といった基本理念がロシアの現実になじまず、むしろ外圧のように捉えられた。

*2001年9月のアメリカにおける同時多発テロ事件で、米露はテロとの闘いに向けた連帯感を共有した。ブッシュに真っ先に電話したのはプーチン。

 (ロシアにとってはチェチェンが憎悪の対象だが、現実的な解釈としてはアメリカで起こった事件とチェチェン問題とはすこし違うような気がする。ロシア軍が殺害したチェチェン人の数は半端ではない)。

*アメリカがイラクでテロとの応接に奮闘していたとき、ロシアは米国の一極主義を激しく批判し、みずからの多極主義を正当化することに奔走した。

*ウクライナの対米接近はロシアにとって飼い犬に咬まれたほどの不快感と敗北感があったであろう。

*欧州で一番先にプーチンと良好な関係を築いたのはイギリスのブレアだったが、ロシアの元KGB工作員による殺害やロシア人亡命者の件で、相互が不信状態に陥り、互いに、大使館員の強制送還に走った。

*ドイツのシュレッダー首相とプーチンは地下資源を供給する側と買い取る側との関係が成立、ドイツとロシアとの関係は順風満帆。

*中国とロシアとの利害の一致点はアメリカに対する警戒だけ。さらに、ロシアのもつ化石燃料、武器、原子力の三つであるとすれば、中国はこれらすべてを買ってくれるお得意さん。

*対インド、二国間に懸案事項はなく、パートナーシップは安定している。しかしながら、おたがいを必要不可欠な存在と認識するほど重要な産業があるわけではない。ただし、インドはロシアのいう多極主義には共鳴を覚えている。

*北極圏は国際法上、領有権はありえない。沿岸の5か国(カナダ、アメリカ、ロシア、ノルウェー、フィンランド)のあいだで領有権についての話し合いが行なわれるかも知れない。ロシアは潜水艦を北極圏に沈めて、自国の旗を立てたといわれる。

 (北極海沿岸にはアイスランド、スウェーデンも含まれるのでは?)

*リーマンショックはロシア経済にも影響し、国内総生産と証券市場の数値だけみれば、ロシアが金融危機から受けた打撃の大きさは他のどの国をも凌駕している。ロシアは他の産業への多元化が進んでいない。

*プーチンのプランは、現代的な福利厚生を国民に対し保証しつつ中長期的な社会経済の発展を実現するというもの。メドベージェフはそれに従って行動してきたと見るべきだ。

*ロシア人の「お国自慢」は、「ロシアと日本こそが最も識字率が高く、教育制度が充実している。それに比べ、アメリカ人の多くは字も書けないし、英語を正しく話せない人が多い」

*ロシアにとって最も深刻な課題は医療施設と設備。ロシアにおける自殺者は一年に6万人、交通事故死は日本の約7倍の35,000人。(飲酒運転が多いのでは?)

*ロシアはソ連邦崩壊後、正教が宗教として蘇った。メドベージェフは汚職問題に真剣に取り組んだが、長いあいだの汚職文化は簡単にはなくならない。

*ロシアとの関係は互恵的でなければならず、互恵的である限り関係の持続は得策である。

 本書は「メドベージェフが1期終わったあと、プーチンが再び大統領に返り咲く」というプーチンの下心は元々知れたことであり、そういう方向でロシアはまとまりつつが、これに関する話は全く出てこない。

 また、北方四島に関しても触れていないが、現実に、二人はそれぞれ別々の時期に四島を訪れていて、いわゆる聞き捨てならぬことを口走っている。著者がこれらに触れなかったのことには何らかの意図があるかに思われる。

 抜粋した箇所が多すぎたため、書評というより、備忘録になってしまったが、現代ロシアを知るうえで役に立つ内容ではあった。 


前後の記事

現在はコメントを受け付けておりません。

サブコンテンツ