人イヌにあう/コンラート・ローレンツ著

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人犬に会う

「人イヌにあう」
コンラート・ローレンツ(Konrad Zacharias Lorenz/1903ー1989/オーストリア人)著
訳者:小原秀雄
原題:So kam der Mensch auf den Hund
1966年7月 至誠堂から単行本初版
2009年7月10日 ハヤカワノンフィクションより文庫化初版 ¥740+税

 作者は「ソロモンの指環」で名をなし、鳥の観察からImprinting(刷り込み)を発見してノーベル賞を受賞した人物。

 作者の家庭には犬、猫、鳥、猿など多くの家畜化された動物が同居し、日々の観察をベースに著されたのが本書。主眼を犬と猫に置いた内容からは作者の観察眼の鋭さと正確さが伝わってくるばかりでなく、数々のエピソードからは作者の動物に対する愛情にも深いもののあることが理解され、本書が動物の観察記でありながら文学としての香り高い著作に昇華した所以も納得させられた。

 エピソードのなかには、以下のような話がある。

 「ある冬の日、庭に一頭の野生鹿が侵入してきたとき、3匹いた飼い犬は一斉に鹿に襲いかかり、たちまち四肢をバラバラに引き裂いてしまい、その光景に慄然とした。なぜなら、家には自分の幼い子供がいたからだ。ところが、犬たちは幼児に対し牙を剥くようなことは決してなく、反対に、多少ながら保護者のような態度をとった」

 「そういう犬も、猿に対しては言いなりになり、猿もそれを当然のように振舞う。一方、猫は猿に対し毅然たる姿勢を示し、猿も猫科の肉食獣に対するように猫には敬意をみせる。猫は犬と異なり、人間にへつらうことはなく、しかも犬よりもはるかに野生的である。とはいえ、人間を最も理解している動物は犬である。両者に共通しているのは、いずれも寿命が短いことであり、死に接するたびに哀切を覚える」

 作者は世の中に「犬好き」と「猫好き」が存在することに対して、「いずれの家畜も人間とは最も近い距離にいる生き物であり、それぞれの行動から互いに異質な特徴を知ることができる絶好の対象。犬と猫とを比べて甲乙をつけるのは聡明な人間のすることではない。とりあえず、接触することなしには、理解の端緒も与えられない」と、自論を展開する。

 本書を読みながら、過去に飼ったあの犬、あの猫を思い出し、この本を読んでいたら、かれらとの接触にも違ったアプローチもケアもあり得たことに思い至り、忸怩(じくじ)たるものを覚えた。

 この著作は犬や猫の好きな読者の期待を裏切ることはないし、文学書としての魅力も色褪せることはないだろう。


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