脳のからくり/竹内薫&茂木健一郎著

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脳のからくり

「脳のからくり」  竹内薫/茂木健一郎共著
新潮文庫  2006年11月文庫化初版

 2007年2月8日に「脳の学習力」という本を書評に載せたが、「脳」を学ぶうえで入門書的なレベルを意図して書かれた本書を、先に読んでおくべきだったと反省した。

 脳のことが科学的な対象となったのはここ10年くらいだが、DNAが二重ラセン構造をもつことを発見した学者、フランシス・クリックが「脳について論文を発表したことに始まる。発言者がノーベル賞受賞者だったために、どの研究者も表立って研究を行い、発表する場をもったという。

 以下は本書から学んだ内容。「脳の学習力」と重複する部分があるかも知れないが、寛容を請う。

1.人間の脳:脊髄の上に脳幹があり、その上を古い皮質が覆い、さらにその上を新しい皮質が覆っている。古い皮質は欲望、情動のありかで、食欲、性欲、恐怖、怒り、快不快、そういった感情のもととなる中枢の「原始的な脳」という意味で「恐竜の脳」とか「爬虫類の脳」などと呼ばれ、専門用語では「大脳辺縁系」という。一方、新しい皮質は「大脳皮質」と呼ばれ、爬虫類の脳のまわりを包装紙のようにくるんでいて、「高等動物の脳」、「知的な脳」といっていい。人間の場合、「おでこ」の部分が異常に大きく発達し、人間の脳の特徴であり、ここを「前頭前野」という。この部分が理性や創造力の源泉。

2.人間はおでこの前頭前野で「考え」、後頭部の視覚野で見て、頭のてっぺんの体性感覚野と運動野で「感じとり」、耳の上の聴覚野や言語野で「聞いたり」「言葉を理解したり」している。

3.大脳皮質にはたくさんのシワがあるが、拡げると新聞紙一枚程度のサイズ。大脳は超薄型のコンピューターといったイメージ。

4.大脳皮質は2ミリー3ミリの薄いシート状、このシートは六層のカラムがたくさん隣り合わせになって、コンピューターの集積回路にあたる働きをしている。

5.脳はニューロン(神経細胞)と呼ばれる特殊な細胞の集まり。人間の場合、ニューロンは千数百個もあって、互いに結びついて複雑な網の目状をしている。大脳皮質のニューロンは脳全体の10パーセントで、大まかに百数十億個くらいある。ニューロンは頭の中の集積回路を構成。

6.脳は決して外の世界をありのままに捉えてはいない。二人の人間が同じ場所に立って同じ風景を見ても、二人が見ているものには微妙な相違がある。

7.脳の研究が盛んになった裏舞台には、MRIやMEGといった手法が発達し、活用できるようになったことが否定できない。

8.人間の作業記憶は平均して七桁(電話番号と同じ)、これをマジックナンバーという。人間の脳のハードウェア的な限界。

9.網膜に写った画像は色彩、形態、空間、運動の4つのモジュールに分解、脳が再構成する。人それぞれ同じ風景を見ても、微妙な相違があるのはそのため。

10.人間の体は左半身は右脳に、右半身は左脳に繋がっている。

11.網膜の上に垂体と棹体(かんたい)があり、垂体は円錐形で、光の波長に反応して色を検知、棹体は光子に反応する。

12.脳の「解剖」は以下のように行われる。

  *耳から耳へ(ヘッドフォンをしているときの状態)に切れ目を入れる。
  *切れ目から頭皮を前後に折り返し、毛髪のついた皮を剥ぐ。
  *骨の部分を露出させる
  *頭蓋骨をノコギリで挽き、耳の上あたりで骨の部分だけを輪切りにする。
  *お椀の蓋をとる要領で頭蓋骨を外す。
  *お椀の下には薄い硬膜が覆っているので、これを剥ぐ。

13.電極を脳に刺して実験したのはカナダの神経外科医ペンフィールド:

  1)脳のてっぺんは皮膚の感覚を処理する「体性感覚野」と「運動野」がある。手と足とでは担当部位が異なる。

  2)手の感覚と運動を処理する部分と頭にかかわる部分が異常に大きい。

  3)脳はニューロン(神経細胞)が複雑にからみあった網目のような存在。そのなかを無数の電気パルスが走りまわり、様々な化学物質が分泌されている、小さな化学工場。

  4)脳には一千億個のニューロンが詰まっているが、毎日、数万個ずつ死んでいく。(新しいニューロンに再生される可能性は否定できないが、基本的には永久歯と同じく再生しないのが通常。増殖しないことで人格を一定に保っている。

14.普通の細胞にはないが、ニューロンにだけあるのは「神経突起」と呼ばれる細長い紐状の部分。それぞれが近くのニューロンと繋がっていく。目安として、約一万個の神経突起は周囲のニューロンと繋がり、その繋がりの部分を「シナプス」と呼ぶ。シナプスの数は一千兆個。

15.神経突起には二種、「樹状突起(入力端子)」と「軸索(出力端子)」がある。樹状突起の長さは最長で1センチ、数は1個あたり1万個、軸索は軸のような線維がニューロンを求めて伸び、細くて長く、1メートルに達するものもあり、ニューロン1個あたり1本、分岐しつつ、出力の役割を果たす。

16.ニューロンを流れる電流は電子ではなくプラスの電荷をもつイオン(正確にはナトリウムイオン)。軸索はプラス帯電だから、プラス同士で反発するので、栓を通れないが、軸索が電気信号を伝えると、一部だけ栓が開き、マイナスに帯電する。すると、外のイオンが栓を通って軸索のなかに入り、入ると栓が開き、次の軸索へと伝えていくという、ちょうどドミノ倒しのように確実な伝達が行われる。一般の送電線はアナログなので減衰するが、軸策の伝導はデジタルなので減衰しない。生物の進化の精妙なメカニズムに依拠していることが判る。

17.海馬は記憶をつかさどる部分だが、ここだけは鍛えることによりニューロンを増殖させることが可能。記憶し、記憶を整理整頓し、定着させる機能。

18.シナプスのところで電気信号が化学信号に変換されるが、これを「神経伝達物質」と呼ぶ。

19.脳内には興奮性ニューロンと抑制性ニューロンがあり、約7対3の割合。前者はグルタミン酸を使い、後者はガンマアミノ酸(ギャバ)を使う。

20.脳内には画面の明度とコントラストの強弱を調整する化学物質があり、これを「神経調整物質」と呼び、ノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミン、アセチルコリンなどの物質が含まれる。

21.脳のしくみは複雑だが、結局はたくさんのニューロンがたくさんのシナプスを介して繋がっている情報の網目。人間や動物の脳は単なる物質の集合体ではあるが、にも拘わらず脳は意識をもっている。そのこと自体が驚異。

22.言語野は目、耳、皮膚、鼻、舌といった出先機関を持たないが、聞く、話すときは聴覚を利用し、文字を読むときは視覚を利用し、点字なら指先の触覚を利用する。言葉をもつことによって動物的な混沌世界から区分けのついた明晰な世界へと移ったのだといえる。区分けとは、たとえば、水と水以外のものの違い、同一性と差異などもそうだし、人間が嘘をつけるのも言語を駆使できるからだ。

23.言語が次第に連絡係レベルの役割から脳の情報処理のうえで重要な地位を占め、人間社会が複雑になり、文明が高度化するにつれ、五感を支配、君臨し、五感を超えるメタとして存在するようになった。言葉は超(メタ)感覚。

24.メタ感覚を自由自在に駆使し、宇宙の果てに思いを巡らせ、素粒子の法則を数式に表し、自身の脳の構造までも分析をはじめた。

25.脳は左右に分かれて存在する。前頭前野には46野と関連する47野、9野、10野とあり、「私」という存在、「私」という意識はこれらのどこかにある。輪郭が見えれば、視覚連合野からの情報を右の司令センターが統合する。とはいえ、たとえば「ネジまわし」という言葉を見ると、言語野だけでなく、頭のてっぺんの運動野が発火してしまう。つまり、脳の指令センターはネジまわしで実際にネジをまわす準備を早くも始めてしまう。

26.ロジャー・ベンローズ(現代数理学の旗手)が「人間の意識は量子力学の波束(はそく)の収縮によって生ずる」という仮説をたてた。この人は「人間の創造性はコンピューターによっては再現できない」という信念の持ち主。CPUは計算はできるが、意識のひとつの証拠としての「クオリア」をもつことはできない。「クオリア」とは意識を構成する経験のメディア、即ち、「質感」という単語はある意味で現代脳科学の最もホットな話題。「クオリア」の語源は英語のQuality(クォリティ/質)。

27.人間の意識の流れは絶え間のないクオリア(質感)の生成と消滅。

28.人間の意識は主観的な質感であって、これをどう科学的に説明すればいいのかがベンローズの問題意識。意識的な思考は非計算的であることは間違いない。彼は「ニューロンをつくっている部品の一つであるマイクロチューブル(微小管)で量子力学的な現象が起きている」という。

29.ニュートン力学は計算可能だが、量子力学は確率的にしか現象や結果を予測できない。量子力学では原子や素粒子といった小さな物体は量子(Quantum)の性質をもつと考え、量子は粒子の性質と波の性質をあわせもっている不思議な存在。

30.一方、フランスのフランシス・クリックとクリストフ・コックが1990年に発表した論文は世界に衝撃を与えた。「人間の魂といい、意識というも、結局は脳内現象にすぎず、科学的には単なる『ニューロンの塊』である」。

31.ニューロンは興奮すると発火するが、なにもしないときでもゆっくり発火している。一秒間に1回ー5回、1秒に何回発火するかを「ヘルツ」といい、1秒に5回発火すれば「5ヘルツ」となる。ニューロンが興奮し発火すると、50ヘルツから100ヘルツくらいだが、最高で500ヘルツに達することもある。

32.長さ、重さ、量などは数字で表すことができるが、頬を撫でる風や夕暮れの寂しい感じやバナナの黄色い感じなどのクオリア(質感)を数字に表すことはできない。しかし、数字で表されなくとも、正義、美、善とかいう抽象的な概念を私たちの意識のなかで把握される以上、一つのクオリアとして感じることは可能だ。

33.クオリアが物質である脳の活動からどのように生み出されてくるのかという問題は今のところ解決の糸口すら掴めていない。現時点でおそらく間違っていないだろうと思われるのは、脳のなかのニューロンの関係性がクオリアを生み出しているだろうということ。一千億のニューロン、一つ一つのニューロンが数千から1万のシナプス結合で他のニューロンと繋がっているのだから、その複雑性は想像を絶している。

34.「ネオフェリア」とは、人間が一般に新しいものを好む傾向をいう。

 本書のおかげで、「脳」のことがかなり深く理解できた。


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