ミスター・ピップ/ロイド・ジョーンズ著

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

mr.pip

「ミスター・ピップ」 ロイド・ジョーンズ(1955年ニュージーランド生まれ)著
訳者:大友りお
原題:Mister Pip
2009年8月1日 白水社より単行本初版 ¥2300+税

 

 ニュージーランドで生まれた本作品は母国では評価されず、英連邦の主軸国たるイギリスで作家賞の最優秀賞を受賞したことで文字通りブーメランのようにオーストラリア、ニュージーランドに戻り、あらためて評価の対象になった。

 物語はパプアニューギニアの東、ソロモン海に浮かぶブーゲンヴィル島を舞台に、島でたった一人の白人男性が教師となり、世に名高いディケンズの「大いなる遺産」という作品を子供たちの前で朗読。主人公である女の子、マティルダ(13歳)はこの物語にいたく魅せられ、「大いなる遺産」には教師やマティルダを含めた登場人物による別のバージョンも生まれる。

 ブーゲンヴィル島が地下資源に恵まれた土地であったため、パプアニューギニア政府はこれを領土化するために戦士、コンバットを送り込み、島では若い男性らがこれに抵抗、革命軍を組織して暗闘という流れを作品の底流に置き、他方、主人公の父親がオーストラリアに出稼ぎに行ったまま音信不通になっている状況までが加わることで、全体の結構を複雑にしているが、それでも無理なく読者を牽引するのが本書の真骨頂。

 一つの物語のなかに幾つもの流れが背景として使われているにも拘わらず、本書を読むことに疲労を覚えないのは、舞台設定、展開、プロットともに悪くなく、登場する人物の配置にも適切な配慮があるばかりか、文章がスムーズで、解りやすく書かれていることがある。本書が「オーストラリアやニュージーランドの高校、大学で教科書に使われるようになった」との訳者の言には抵抗なく頷ける。

 久しぶりに面白い小説に出遭ったという感慨。


前後の記事

現在はコメントを受け付けておりません。

サブコンテンツ