海を見たことがなかった少年/ル・クレジオ著

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海をみたことがなかった少年

「海を見たことがなかった少年」
ル・クレジオ(Jean-Marie Gustave Le Clézio/フランス人/1940年生/ノーべル文学賞受賞)著
原題:Celui qui n’avait jamais vu la mer
英題:Mondo and Other Stories
副題:子供たちの物語
訳者:豊崎光一/佐藤領時協訳
1988年集英社より単行本
1995年6月25日 文庫化初版  ¥543+税

 本書には八つの短編が収められているが、いずれも子供の世界を表現したものらしい。「らしい」といったのは私自身は全部を読みきっていないからで、正直いって、途中で投げ出してしまった。

 短編のうち、スタートを飾る「モンド」という小編とタイトルになった「海を見たことがなかった少年」に限っては最後まで、我慢して読了したが、子供が大人には理解できない独自の世界を求め、探すものだという心理はよくわかるが、モチーフを一つの作品にする場合、作品のあり方としてはこれでいいのかという疑義が胸から離れなかった。小説のエンターテインメント性を無視、結論に至るまでの展開は倦怠を催すばかり、こんな作品がフランスで高く評価されている背景が、全く不可解。

 タイトルに魅かれて入手する私の読書法が見事に裏切られたというしかない。

 本書の裏表紙には、「コートダジュールのさざ波もまばゆい南仏ニースの海辺、そして憧れの異国はひなびた町にこだまする子供たちの風景から、神話的な雰囲気すら醸しだす素敵な物語が八話、珠玉の短編集」とのコマーシャルがあるが、作者の文体からくるペーソスは詩的ではあっても、自己本位で、立場を確立した作家の傲慢を感ずる。

 第一編の「モンド」では、ヴェトナム人の中年女性が登場、少年と親しくなるが、作者がどのようなことを脳裏に描いたかは知らないが、私にはフランスがかつて植民地にした国から一人の下士官が女を連れてきて、後日棄てたとしか思えなかったし、そっちのほうに頭がいってしまい、「子供中心の世界を」という作者の意図とは別の方向に思考が流れしてしまった。


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