高野聖/泉鏡花著

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こうやひじり

「高野聖」 泉鏡花著  岩波文庫

 いわずと知れた明治の超有名作家による代表作。

 作者と題名は受験のために暗記したことはあったが、読んだのははじめて。 巨匠といわれる作家の作品を書評することは僭越の感を免れないが、いちいち遠慮していては古今の名作については書評ができない。

 当然ながら、本書は明治時代の作品、使われる言葉に現代人としては馴染めないものが多いが、説話体の表現には、たとえば、薄暮が迫るころ、僧侶が女に導かれて谷川へと山道を下る場面があり、次のように書かれている。

 「女が向こうを向き、きものの片褄をぐいとあげた。真っ白(スネのこと)なのが闇にまぎれ、歩くと霧が消えていくような」風情があるなど、艶かしい。このあたりの文才は鏡花独特の妖艶さ、奇異なものへの飽くなき関心からきているように感じられる。

 女が白痴の夫と同衾、夜毎伽をする場面の生々しさ。谷川の水を使い、手で体をさすってくれる、ほとんど愛撫に近い所作などの表現から、この作者の倒錯的な性癖を窺わせ、現代に生きていたら、どんな作品を書いただろうかと想像させる。

 作者は非現実的な、怪異なものが好みらしく、それが作者独特のエロチシズムと相俟ってどの作品にも共通する。本書を読むことで、野坂昭如が泉鏡花賞を受賞した理由がよーくわかった。「泉鏡花」の「鏡花」は「狂花」が正しいのだ。

 女のしゃべる言葉と所作には匂うばかりの色気があり、あわせて妙な現実感がある。

 物語全体の構成には評価し得ないものがあり、女を描く力量は雑把な作家をはるかに超えているが、奇矯という印象は拭えない。


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