エッフェル塔ミステリー/倉田保雄著

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えっふぇるとうみすてりー

「エッフェル塔ミステリー」  倉田保雄(1945年生/共同通信社時代にパリ市局長を経験)著
1983年 「エッフェル塔物語」とのタイトルで岩波新書より発刊
2010年2月20日 近代文芸社より訂正、加筆後、単行本初版
定価: ¥1800+税

 タイトルからはパリのエッフェル塔を舞台に起こった猟奇事件といった内容を予測するが、そうではなく、英語でいう「Mystery」本来の意味、「不思議な」、「不可思議な」、あるいは「神秘的な」といった意味で、ここではエッフェル塔がいかにMysteriousな存在かに集中して書かれた内容。

 本書からは私の知らなかったあれこれを学ぶことができ、読書の甲斐があったと思っている。そういう部分を以下に記すことにする。

*エッフェル塔の青写真をつくり、建立したのは、いずれもギュスタブ・エッフェルという1832年生まれの人物で、架橋の仕事に習熟、名声を博していたが、塔は1887年、つまり東京タワーが建設されるより半世紀以上前に完成した。当時の日本は明治20年、東京に電灯がついたばかりであり、鹿鳴館で盛んにパーティが開かれていた時代だった。タワーは1889年のパリ万国博覧会を睨んでの建設だった。

*ギュスタブが塔に着手する前に手がけた鉄橋づくりで橋脚を川底25メートルの深さに打ち込む手法を考案、成功したことも塔づくりに役に立っているが、彼の開発した圧搾空気と水力機械をフルに利用した特殊技法と、炭素の含有率の少ない鉄鋼の選択による橋梁の強度を高める手法が功を奏した。

*ギュスタブが18年間に手がけた建設物には、鉄橋の架橋31、大型道路橋17、その他、教会、デパート、天文台などなど多数、多くは現在も残っている。なかでも人の耳目を驚かせるものとしてはアメリカのニューヨークに建設された「自由の女神」がある。もともとはフランスがアメリカの独立記念に贈ったものだが、中身の鉄骨はギュスタブの設計による。

*パナマ運河に初めて手を出し、失敗した人物がレセップスという男性で、スエズ運河の開通には成功した男だった。パナマ運河の開通に着手するにあたって、ギュスタブが「パナマ運河の開通には水門の設置は必須」だとしきりに助言したにも拘わらず、レセップスは耳を貸さず、大失敗に終わった。

 (ちなみに、パナマ運河の開通に成功したのはアメリカで、ルーズベルト大統領の肝いりに拠るが、以後かなり長期にわたって、アメリカはコロンビアが元々もっていた利権を奪い、運河を利用する船舶からの上がりを独立をバックアップしたパナマと分け合い、現在ではパナマ一国の収入となっている)。

*タワーは建設後、120年以上が経過したが、今も年間600万人の観光客が訪れている。

*エッフェル塔の建設に反対した人のなかには、「椿姫」を書いたアレクサンドル・デュマ、「女の一生」や「脂肪の塊」を書いたモーパッサンなどがいたし、「ボルトで締めつけられた鉄板でつくった醜悪な記念柱」とか、「発狂したピラミッド」とか、「空っぽなシャンデリア」とかいう悪口も投げつけられた。

*高さ320・75メートル、重さ7千トン、内部の諸施設を加えても総重量7700トンであり、ニューヨークのエンパイアー・ステート・ビルの鉄筋の量、5万2千トンとの比較でいえば、驚異的な軽さである。塔の1センチ平方あたりの地面にかかる重みは5キロにすぎず、これは成人が椅子に腰かけたときの椅子の床にかかる重みと同じ。

 読者として最も驚いたのは次の一文:

*パリにはエッフェル塔より歴史の古い「見えざる奇観」が存在する。それは花の都、パリの地下に広がる中世から続いた採石場の跡、つまり空洞のことで、そのスケールたるや全長300キロ、面積にして835ヘクタール、パリ市の総面積の約10%に当たる。陥没の危険箇所はパリ市内の十三区、十四区、十九区に集中しているが、その十四区のダンフェル・ロシュロー広場の下には知られざる名所「カタコンブ」があり、そこに6百万のパリ市民の骸骨がうず高く積み上げられている。驚くべきことは、入場料さえ払えばその場を見物できることだ。

 (「事実は小説よりも奇なり」とは、こういうことを言うのであろう)。

*ギュスタブは鉄を利用した技量の卓越さから、フランス空軍の航空機の製作にも寄与した。

 (現在、世界で最高の鉄の品質を誇るのは日本であり、質の良さは混じりけのなさで決まるらしい。鉄鉱石から混じりけを抜くために必要なのは石灰で、石灰だけは質のよいものが日本の土壌のなかから採取できるからだという。海に囲まれた日本ならではの地下資源といえるだろう。現在は、中国からの注文が最も多いらしい)。

*NYCのワールドセンターがテロに遇って以降、次の標的の候補の筆頭にあるのがエッフェル塔。(アメリカではラスベガスかディズニーランド)。

*東京スカイツリーは電波塔で610メートル予定だが、モスクワの「オスタンキ」の540メートル、カナダ・トロントの「CNタワー」553メートルを抜いて世界一になるだろうが、世界一のビルを隣国の支援を受け完成させたアラブ首長国連邦、UAEがいずれもっと高いタワーを建設するかも知れない。


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