生麦事件(上下巻)/吉村昭著

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生麦事件

「生麦事件」上&下 吉村昭著 新潮文庫刊

 薩摩の武士が抜刀して馬に乗ったイギリス人(日本滞在時、アメリカ初代大使ハリスと行き来していたヒュースケン)を惨殺した話から、本書ははじまる。日本の常識から考えると、大名行列のまん前を馬乗して通るというイギリス人の行動は無礼な、というより言語道断な振る舞いだった。

 その後、イギリスは艦隊を鹿児島湾に派遣、戦闘の火蓋を切った。勝敗の行く末は見えていたが、予想に反し、イギリス軍は甚大な被害を受け、艦長は戦死する。

 しかしながら、西欧の技術力、戦闘力を身をもって知った薩摩藩は講和を決断、裏で「開国」への決心をかためていたと推量される。

 いずれにせよ、吉村昭氏の著作はどの著作を読んでもがっかりしたり、落胆させられた経験がない。

 資料に向かう態度は真摯で誠実、拾い上げる内容は残酷で厳しいものの、歴史の事実を、ありのままの人間という生きものを鮮明にさらしてくれる。

 私はこの著者の作品はほとんど読んでいるが、期待を裏切られたことはただの一度もない。そのことをもういちど強調しておきたい。2006年8月に逝去したと仄聞した。ご冥福を心から祈る。


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