化石の博物誌/イヴェット・ゲラール・ヴァリ著

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化石の博物誌

「化石の博物誌」 知の発見双書17 イヴェット・ゲラール・ヴァリ(フランス人)
訳者:南條郁子  監修:小畠郁生
1992年5月20日 創元社より初版  ¥1400+税

 大抵の男の子が化石が好きなように、私も化石が好きで、インドネシアにいた頃、ジャワ島のサンギラン(ジャワ原人が出土したところから遠くない)に何度か足を運び、カニ、魚、貝(アンモナイトなど)の化石を買った。帰国後に、そのうちからカニの化石を知人の息子(小学生)に贈ったら、予想以上に喜んでくれたことが昨日のことのように思い出される。

 「古代より化石が薬用的効用があると広く民間に流布していた」との冒頭の話には若干驚いたが、人間のミイラをヨーロッパで薬用にしたという話も伝わっているので、古いものに対する畏敬からの一種の信仰のようなものが ベースにあったのではないかと憶測される。

 「紀元前6世紀、ギリシャの学者は化石の成り立ちを合理的に考察し、『化石とは遠い昔、今とは非常に異なる環境のもとに生きていた生物の遺骸である』という正しい認識に達していた」

 毎度ながら、ヨーロッパ人は紀元前からギリシャを頂くことによって、どれほど貴重な科学的知見に恵まれていたかが窺える。

 にも拘わらず、ルネサンス期には化石に関して、「別の種から生まれて死んだもの」とか、「創造主の失敗作」とまで考えていた学者がいたとは、ここにも当時支配的な立場にあった教会の影響による愚昧を感じざるをえない。

 「ギリシャ人学者の化石学はイスラムの学者によって、かつて数学がそうであったように、逆輸出され、再び欧州に入ってくる。曲がりなりにも化石についてのギリシャ学者の解釈が認められたのは13世紀に入ってからだったが、それで欧州全体が化石についての知見をあらためたわけではなかった」

 (数学だけでなく化石についてもイスラム文化圏のほうが優れていたとは現在のイスラム圏を見る限り、信じられない)。

 「陶芸家だったベルナー・パシリーが1580年にソルボンヌ大学で講演を行い、自然発生説を否定して、化石は生物の遺骸にほかならないことを主張したため、教会から異端児扱いされ、パリのバスティーユ監獄で生涯を閉じた」

 過去に生きた生物が化石化している事実は「神の創造物が消滅したことを認めることになる」、つまりは「キリスト教義に真っ向から反する結論だ」という見方が強かった。

 宗教は一貫して人間の科学的思考の邪魔をするらしい。

 「16世紀にはレオナルド・ダ・ヴィンチも、パシリー同様、化石の起源を見抜いていたが、18世紀になっても教会はノアの大洪水を取り上げ、山で発見された貝や魚などの化石はノアの洪水によってここまで運ばれたと主張し、化石類は洪水のあったことを証明するもの」との、こじつけに執心、キリスト教社会特有の頑迷さにはただただ失笑。 

 ダヴィンチは中世以降はじめて化石に対し科学的な態度をとった人物であり、同時代の迷信的思考を拒否している」

 「化石についてまともな研究をし、まともな学説を披瀝したのはキュヴィエという博物学者で、19世紀に入ってからだった。化石の研究には地質学が欠かせないことも理解された」

 「さらに、キュヴィエの学説の欠点を補ったのがラマルクという学者で、生物は地質学的流れのなかで次々に派生したが、途中で消えてしまったものはいない。ただ、生存競争の変化や環境に適応すべく生物体に変化が起こり、それが遺伝子に伝えられた」と、連続性と変化を論じ、進化論に近い知見を披瀝した。

 19世紀には年代測定の方法について各地で議論された。

 「ダーウィンの進化論は人間の由来と、猿が人間の仲間として位置づけられたことで、宗教界の怒りは頂点に達した」 

 (ために、アメリカでは今でも高校で「進化論」を教えない。訴訟で他人を陥れたり、金儲けをたくらむアメリカ人は跡を絶たないけれども)。

 19世紀初頭に恐竜の化石が掘り当てられ、それによって化石動物の復元は黄金時代を迎える。化石爬虫類の発見が相次ぎ、1841年には9種類もの中生代の爬虫類が学術誌に掲載された。それを機に、専門家のほかに、多くのアマチュアの化石愛好家が輩出した。

 化石の有無の情報源は採石場や鉱山で働く労働者たちで、アマチュア愛好家たちのなかには商品としての価値に目覚めて、収集を行い、販売した人間も少なくなかった。また、かれらによって発見された化石のなかには博物館入りとなる貴重なものもあった。

 「コレクション対象は小さなものから巨大なものへと変わった。欧州の博物館には植民地からもたらされた化石が増えていった。とはいえ、最大のコレクションに成功したのはアメリカで、各地に博物館が建設され、とくに恐竜化石では他の博物館を圧倒した。

 モンタナ州、ワイオミング州で保存状態の良好な大型恐竜、アロサウルス、ケラトサウルス、プロントサウルス、ディプロドクス、トリケラトプスなどが採集された」

 地層年代を調べることで、それぞれの化石が地球上で生息していた時期が推定できる。

 中国が本気で発掘に力を入れれば、アジア特有の化石発見に結びつく可能性がある。

 本双書シリーズは多くの写真、絵などによって理解を援けてくれる。


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