恐慌前夜・アメリカと心中する日本経済/副島隆彦著

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恐慌前夜

「恐慌前夜・アメリカと心中する日本経済」
副島隆彦(1953年生/常葉学園教授、評論家)著
2008年9月15日 詳伝社より初版 単行本

 本書は本年の9月15日の出版だから、アメリカでサブプライムローンに端を発した諸問題(恐慌状態に近い実態)については、脱稿が8月初旬としても、それ以後に連続して起こった企業合併、国内外からの支援、破綻、会社更生法申請など、アメリカ大手金融業社の動きまでは筆が及んでいないにせよ、ほとんどは本書に書かれた内容の延長線上にあり、作者の洞察力は評価に値するし、このタイミングで世に出たのも絶妙というしかなく、大向こうを唸らせるものを包含している。

 この種の「アメリカの終焉」を書いた著作が他にもあるが、最新の情報をベースにしている点、また、作者がアメリカの政治思想、法制度、金融、経済、社会時事評論分野における専門家である点、書かれた内容には瞠目すべきものが多く、学ぶことが僅かではなかった。

 以下、多少長くなるが、重要と思われるポイントを列記し、本書のエキスを拾い上げることとする。

1・米国の住宅公社は日本の住宅公社と異なり、公共企業体ではなく、民間企業であり、米政府はこれを支援して助けようとは思っていない。この二社の累積損は530兆円に昇る。(この事実を誤解した他国の金融業者は少なくない。たぶん、日本の銀行や保険会社にもあったであろう)。

2.日本の金融業者が買った金額は、農林中金庫が5兆5千億円、三菱UFJフィナンシャルは3兆3千億円、日本生命保険は2兆6千3百億円、みずほフィナンシャルは1兆2千億円、第一生命保険9千億円、中央三井ホールディングズ7千5百8十4億円、大和証券グループ1千5百億円、他の銀行の小額の買取部分をあわせ、合計23兆円とみなされている。

3.三井住友グループは1千億円で、被害は少なく、イギリスの最大の民間銀行バークレイに、たぶん、1兆円の支援を行い、実質的にバークレイの筆頭株主になっている。

4.シティバンクは100兆円、GM、メリルリンチ、リーマンは揃い踏みの凋落、(作者が本書を出したあと、バンク・オブ・アメリカはメリル・リンチと合併を決定したが、リーマン・ブラザースは支援を受ける相手がなく、米政府からも見放され、会社更生法を申請、米国以外にある支社は野村ホールディングズが買収したが、外国支社の社員はかなりの数が解雇)。

5・アメリカが海外に売った総額は160兆円と言われているが、内訳は中国が40兆円、日本が23兆円(細かく買った市中銀行などを併せるともっとある可能性がある)、サウジアラビアが30兆円、イギリス、フランス、ドイツは各10兆円、アラブ首長国連邦は合計で5兆円、オーストラリアが1兆円、イタリアとロシアは関心を示さず全く買っていない。イギリスは経済力に難があるものの国庫にゴールドがあり、それがささやかながら恐慌状態を抑止しているが時間の問題。(いずれゴールド価格が上昇するにしても、結局はゴールドを売却することになり、ゴールドを暴騰させる効果をもつだろう)。

6・アメリカ国民の住宅ローンの保有残高は1,300兆円、これに対し、アメリカ政府はわずか30兆円の緊急融資額の法案を議会を通して立法化、可決したが、この手法自体はアメリカが節度を失い、なりふり構わず、焦げついた借金返済を先延ばしにするであろうこと、諸外国からの借り入れに対しては狡猾な全額踏み倒しという索に出る公算が強いことを示唆して余りある。この汚い司法にサインしたのはブッシュであり、この事実はマケインの敗北を暗示するものだ。オバマは当選後、2年以内にドルの切り下げを断行するだろう。「ドル覇権の崩壊」と「連鎖の大暴落」を招来することは回避できないだろう。

7・日本では、農林中金はいうに及ばず、三菱UFJも破綻の可能性が出てきた。こうした実態が表面化しているにも拘わらず、日本政府は米国政府に対し、返却を直接請うことをしない。一方、中国は40兆円を必ず返してくれと声高にアメリカに談判しつつも、一方で、溜め込んだドルを使い、日本の株式と日本国際を買い込んで、必死に保身に走っている。

8・アメリカ政府は基本的に民間企業をはじめ、民間人の投資や預金に対してすら、日本政府のように面倒をみたりはしない。(が、今回の恐慌は過去に例を見ないレベルのもので、支援に踏み切る可能性もなしとはしない)。

9・今後強くなる通過はユーローでも、元でも、円でもなく、オーストラリアドルである。地下資源を豊富に持ち、政治は安定し、親中国的だが、一方でメルボルンのBHPビリトンという世界最大の非鉄鉱業会社が、同業の大手のリオ・テヒントに対し2008年2月に買収オファーを行い、中国の対外膨張戦略に世界規模で封じ込めつつある。(そのようなレベルで「オーストラリアドルは買い」というのは短絡に過ぎる)。

10・アメリカは世界への投資から撤退しつつあり、日本の株式からも同様に、アメリカ人が買った株は思いがけぬほどの下げに転ずるであろう。

11・アメリカでは銀行を信用しなくなる信用危機と流動性危機が加速している。今後、対外的には恥も外聞もない行動を採るだろう。竹中平蔵が小泉政権のもとでやったアメリカ方式の金融債権はすべてマイナスを助長することになる。これによって日本の銀行は企業が債権を減少することは出来たものの、一部企業に対してすら貸し出しをストップするという本来の業務を放棄してしまった。(状況に変化が起きれば、それに応じた索を考慮するのが政治というものだろう)。

12・アメリカは時価会計と自己資本比率とを旨とし、これを世界に押し付けてきた。にも拘わらず、金融破綻から悉く業績悪化を示したら、これまでの格付け方式であった時価会計のチェックをやめてしまい、格付けはおのおのの銀行に任せる方式を採った。過去にすでに格付け会社が情実に基づき、恣意的で作為的な格付けをしてきたことが今や天下に明らかになってしまっている。日本では、竹中平蔵が率先してアメリカンスタイルの金融庁創設と、金融庁による格付けを押し付けために、取引銀行から融資を受けられなくなり、ダイエーやミサワ・ホームなどは「自力再生は不可能」との烙印を押され、整理回収機構に送りこまれた。無実の罪の者が死刑場に送られたような、哀れをとどめた。日本は哀れなアメリカの属国というしかない。

13・中国の過去20年間の驚異的な急成長は一次産品を米国を中心に世界中に売って入手した米ドルと米国債を、その信用の土台として成し遂げたものだから、ドルの威信が崩壊すれば、中国も苦境に陥る。ひょっとすると、中国が米ドルの信用を支えることになる可能性もなしとしない。もし、中国がドルと米国債を売り始めたら、アメリカの没落は早まるだろう。とはいえ、中国ははしこい国である。すでに密かに、米ドルを使い、日本株や日本国債を大量に買っている。(ドル札は今や婆抜きのジョーカーのような存在になりつつある。米国政府が金利の大幅下げに出れば、円高が避けられず、かつドル離れを加速するだろう)。

14・カリフォルニア州の大手住宅ローン会社「インディマック・バンコープ」が取り付け騒ぎの末に、業務停止に追い込まれた。これは同種の金融機関としては、1984年のコンチネンタル・イリノイに次ぐ、過去二番目の規模で、預金高は190億ドルであった。(今後も、市中銀行の破綻があり得るだろう)。

15・全米五位の証券会社ベア・スターンズが破綻したときに、吸収合併のJPモルガン・チェースに対し、ベア・スターンズが空けていた穴(未償還金となった300億ドル(3兆円)をポールソン財務長官は国債で直接支払った事実は、アメリカは国として、何でもやる、新札を印刷して、いくらでも資金供給することを意味し、このような手法を継続すれば、その報いはいずれ必ずやってくる。

16・アメリカにおける大手サラ金業者をモノラインと称し、大手としては4社が挙げられるが、2009年中には破綻を免れず、そのとき米政府は公的資金の投入をするだろう。モノライン各社は格付け会社から、これまで実力以上の格付けをしてもらい、相互依存体質を強めてきた。弱味の握り合いという共犯関係が仲間割れで壊れだし、格付け会社はモノライン各社の格付けを一気に引き下げ始め、結果として、モノライン各社は共に引当金(自己資本比率)を大量に積まざるを得なくなった。株価は双方ともに大暴落している。ただ、モノライン4社が破綻の様相をみせれば、米政府はこれに資金援助を行うことは目に見えている。

17・日本の銀行、三菱UFJは3.3兆円を買い込んでいる。三菱はシティーグループとは長いつきあいがあり、この際、抱きつかれて心中するのではないとまで言われている。一方、三井住友の含み損は2000億円に過ぎず、この状態に快哉を叫んでいる。現在、アメリカのメガバンク、メガ証券が日本に来て8割引という投売りをしているが、そのほとんどが余裕のある三井住友に集中している。

18・米政府は株、先物相場、原油、ゴールドなどの空売りを、為替取引での空売りを含め、どんどん禁止しはじめている。アメリカは追証を払うために借り増している。いわば、サラ金の多重債務者であり、これはもう末期的症状といっていい。(この事実が最近になって、石油価格を押し下げてはいる)。

19・シティグループは3年で潰れる。メルリ・リンチもリーマン・ブラザース・スタンレーも1、2年で消えてなくなる。(メリル・リンチはバンク・オブ・アメリカとの合併が成立した事実を、この時点で、作者は知らなかったかも知れない。とはいえ、生き残るか否かは合併が保証するわけではないが。また、AIU保険の親会社であるAIGは政府から支援を受けることが決まっている)。

20・生き残るのはゴールドマン・サックスとJPモルガン・チェースとウェルズ・ファーゴ銀行、クレジット業界ではVISA、アメックス、ダイナース、マスターカードの大手4社。(ゴールドマン・サックスも必ずしも安泰とはいえないだろう。いずれ、日本国内に所有する不動産を売って換金する手立てを弄する可能性がある)。

21・資金を無限に供給し、表面上は自由主義の経済体制を維持し、裏で、強硬な統制経済国家を目指し、大恐慌に陥る前夜に、緊急避難的に多くの法律を一気に改正、更改し、預金封鎖態勢を採り、新札切り替えという名目で24兆円あるといわれる国民の金をあぶり出し、資産監視を行うだろう。

 現に、アメリカのATMではたったの10万円しか送金できなくなっているし、多額の送金にはその目的を銀行員に訊かせ金融庁に届けさせるという体制になっているが、恐るべき人権侵害といっていい。10年前に、アメリカが日本に金融庁の創設を強制したのは、1929年の大恐慌の10倍に相当する巨大な金融恐慌が世界を覆う実態を何でもないかのような振りをするための、いわば現代の「ゲシュタポ」である。金融庁は別名を政治警察とも、思想警察ともいう。

22・1998年に成立した金融自由化のための「外為法」の大改正によって、ハゲタカ外資による日本の銀行、証券、生保、大企業ののっとりが激しく実行された。これを押し進めたのは小泉・竹中コンビである。金融庁の創設はアメリカの手先であり、これの犠牲になった経営体は枚挙に暇がない。株券を発行せず、デジタルで一本化するのを「ほふり」というが、これもその一貫のなかにある。金融庁としては、このことによって、株式投資に関係する法人、個人の株式資産がコンピューターですべて読み取れるという仕組みである。

23・現在、1グラム3,000円の金地金がやがて6、000円をめざすだろう。為替は1ドルが80円ほどに下落する。そのときオーストラリアドルを長い目で買っておくことだ。儲けのサイクルは5年、10年で見て欲しい。ゴールド(金塊)の売買価格は最低500グラムからだが、1グラムにつき3千円を切ったら、金塊(500グラムにつき¥1,500,000になるが)、買っておけば、数年のうちに倍になるだろう。世界的な金融恐慌の時代、最も安全な資産の保護はブツを持っていることだ。(作者が脱稿した時点では、たぶん、1グラムにつき¥2,800前後だったであろうが、出版された時点では¥3,000である)

24・現在、ロシア、イラン、中国、UAE、あるいは南米諸国でさえもが日本国債を買っている。日本の国催は魅力的で、かつ強い。つまりは、国としての信用度である。

25・日本国内の大手不動産業者、三菱地所、三井不動産らの所有不動産は買値の半分くらいに落ちている。その他の不動産業者のものは4分の1に落ちるだろう。これは、それまで率先して買っていた外資が一斉に売りに転じたからだ。一方、建設業界の株価は安値に放置されているが、日本の建設業界の実力はこんなものではない。長い目で、押し目を買っておくのも一法である。ことに汚水処理に長けている企業が推奨される。

26・アメリカは今や恐慌前夜にあり、いずれ近いうちに必ず崩壊する運命にある。日本が買い込まされている合計で600兆円はもう戻ってはこない。多くの国民は年金がもらえなくなる可能性すらある。そして、アメリカという国がいかに自己中心的で、自分勝手な国であるかを認識することになるだろう。

 本書をこのタイミングで読む機会を得たことは幸運だった。私個人は即座にシティバンクおよび東京三菱UFJとの関係を切った。ただ、本書の内容に関しては、今後とも、ニュースに注意し、作者の読みの正当性はもとより、ミスジャッジメントがあれば、それも「恐慌前夜のその後」として書いていくつもりである。


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