信長ミステリー/太田晴久著

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nobunagamystery

「信長ミステリー」 副題:天下布武と御馬揃えの秘儀
太田晴久(1955年東京生/イスラエル3年、スウェーデン10年など、海外での滞在や研究が長い)著
2010年8月15日 文芸社より単行本初版 ¥1400+税

 本書のテーマは「信長と本能寺の変」に関して、歴史として残されていない、隠された部分を曝(さら)そうとの意図をもって書かれている。

 著者が強調するひとつは「太陰暦」と「聖書」、イエズス会宣教師のオルガンチーノが二人の黒人を同伴し、本能寺にいた信長に謁見している事実は、元々、信長の行動原理が先に挙げた「太陰暦」と「聖書」に基づいているからだという。

 「復活祭の翌日に、信長が人を付けて黒人二人を同行、市中を巡る光景は過越しの初日の夜にイエスがエルサレムで捕らえられ、翌朝十字架を背負ってゴルゴタの丘を歩かされている新約聖書の場面と合致する」と主張するが、イエス・キリストに興味のない人にはチンプンカンプン。

 「ヴァリニャーノは復活したイエスとして、信長は再臨したイエスとして邂逅することにより、聖書の呪術性と暦の循環的秘儀が成就した」という下りもよく解らない。

 ここまで読んだところで、想像できるように、この作者は西暦0年前後に起こったことと、信長に面会した時代を聖書に書かれた内容やイエスの動向や信長が執り行った御馬揃えや黒人二人の扱いなどを同列に置いて、作者独特の思惑というべきか、洞察というべきか、そういう方向に多くの言葉を使って読者を誘導しようとしているかに感じる。

 作者の当時に対する推理として以下の言葉が披瀝されている。

 「信長の御馬揃えは天下布武を唱えて天下統一を目前にしていた信長が皇室一同、公家衆のみならず、ヴァリニャーノらを招いて京都御所の東門外で催された式典が何の暦日的な日取りも考慮されていず、日本神話や聖書上の縁起も意図せずに興行されるはずはない」

 信長が生来合理主義者であり、科学的なものに関心が高く、当時来日した宣教師らから西欧が知りえた最先端の科学はもとより、世界地理、地球などのありようについて多くを積極的に学んだという点で日本人一般にない好奇心を持っていたことは歴史的な常識。その事実が上記されたような展開を可能にするのかは不可解というしかない。

 ただ、「信長と本能寺の変の真実を暴く」といった言葉がありながら、本書にはそのあたりのことが一切書かれていず、「これは詐欺だ」と思ったほど不快になったことを記しておく。


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