世界の果てのビートルズ/ミカエル・ニエミ著

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世界の果てのビートルズ

「世界の果てのビートルズ」
ミカエル・ニエミ著(Mikael Niemi/スウェーデン人)
岩本正恵訳  新潮社単行本
2006年1月初版 (現地スウェーデンでは2000年出版)
原題:Popularmusik Fran Vittula

 著者はスウェーデンの北部、フィンランドとの国境に近い北極圏、パラヤ村で生まれ、アメリカに移民した人からもらった一枚のレコード、ビートルズに感動、以後ビートルズを軸に置き、幼児期から少年期まで、下手なバンド活動、学校やアウトドアでの交友関係、土地特有の風習、社会的背景、住人らの嗜好や生活実態などについて語る、半伝記物。

 ちなみに、北極圏には、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシア、アラスカ、カナダ、それぞれの北部とグリーンランドのほぼ全域が入り、オーロラが見られる土地である。

 アルコールに目のない人々(ほとんどはキコリが主要な仕事)、汽車のトイレにロックがない現実、アフリカの黒人を見るために村人がそろって教会に集まる話、グループが敵対しエアガンで撃ちあう危険な遊び、汚い言葉でののしりあい、すぐ殴りあいをはじめる粗暴さには、同じ地球上で同じ空気を吸って生きている人間とはとうてい思えず、まるで、歴史が1世紀か2世紀バックした錯覚を覚える。

 (かれらは、おそらくバイキングの子孫であろう)。

 荒削りな風景、春になると川の氷が解けて砕け散る様、焼けた石に水をかける本物のサウナ、森深き土地の超自然的な話、冬は二ヶ月以上も太陽が昇らず、夏は白夜が続くという現象、フィンランドのサーメ人などの話は未知の世界に触れた思いがする。

 本書はスウェーデンで空前のベストセラーとなり、2004年には映画化され、世界20か国以上で翻訳されたというが、同じ地球にこのような土地があり、このような人々がいるという現実を知ったことが私にとって最大のメリットだった。 さらにいえば、このような僻地からベストセラーの著作が生まれた事実に妙な快感を覚える。

 日本人が不思議に思うのはスウェーデン国内のパラヤ村における共通語がフィンランド語であることだろう。この事実も、国境を接するということの影響の一つである.。にちみに、スウェーデンの首都ストックホルムは国の南部に存在し、パラや村からは約800キロという遠距離にある。

 西欧人からは、「フィンランド人は『フィン』と呼ばれ、教養に欠け、優雅とは無縁の、下品で粗暴、粗野な民族である」と伝聞していたが、本書にはそれを端的に肯定するような表現はなく、単に「同じスウェーデンでも南と北とでは文化的、社会的な相違が多々存在する。ただし、パヤラ村の子弟の学力は全国で最低」との説明があっただけで、「フィンランド人」に対して蔑視する姿勢はなく、偏見をもたずにすんだことを感謝する。個人的な話になるが、知己の女性がフィンランドにお嫁に行くという話を聞いてから、フィンランドはただの北欧の国から、格上げされて、親近感の的となった。

 ただ、私の前から知っているスウェーデン人は流暢な英語を話し、教養もあり、穏やかな性格で、ここに登場する同じ民族とはとても思えなかったことを付記したい。 実は、私の別の知己(日本人)がスウェーデンのストックホルムにある大学院に留学していて、北欧経済の勉強をしているため、もともとこの国については親しみを持っていた。

 ビートルズが世界に飛び出したときの、新しい音楽への驚愕、驚嘆、憧憬などに関していえば、当時の若者には世界の果てまで一様に通ずるものがあったことをあらためて知った。


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