生物学個人授業/岡田節人&南伸坊共著

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生物学個人授業

「生物学個人授業」 岡田節人/南伸坊共著
1996年新潮社より単行本初出
2000年8月新潮社文庫化初版

 養老孟司氏との対談に比べ、はるかに理解し易く、むかつくところがなかったのは、ひとえに岡田節人氏(生物学者)の人柄に負うているところが大きいのではないかと思う。

 本書によって学んだことはかなり多いし、書きとめておかないと忘却の彼方へと飛んでいってしまいそうなので、以下に備忘録を兼ねて列記し、コメントがあればそれを記すつもりで、ブログを埋める。

1.「死ぬ」ことはできるが「死んでみる」ことはできない。

2.人間だけが特別の生物と考えたら、エコロジーは生まれない。

3.癌は生物の個体数の変動にほとんど影響しない。伝染病のほうが与える影響ははるかに大きい。

4.癌細胞は無目的に増殖する。癌細胞が人を死に至らしめるのは癌細胞同士が互いにくっついて一箇所に留まらず、ばらばらに増殖するから。

5.「生命」を語る場合、二つのベースがある。一つは哲学的な問いであり、もう一つは生物学的な問いである。

6.人間の赤血球には核はないが、爬虫類、両生類、鳥類の赤血球には核がある。恐竜は爬虫類だから、核をもっていたことは確実だ。

7.DNAは染色体という鎧、兜をかぶっていて、それで初めて舞台の上で働くことができる。細胞が分裂して増えていくためには染色体がつくられてこそである。

8.メンデルはエンドウ豆で遺伝の実験をしたが、アサガオなら可能でも、同じ実験を桜にやっても無理。

9.実験、研究のために有用なモデル生物というのがある。条件としては、世界中が同じ種で実験できること、いつも簡単に入手でき、手元に置いて飼えるもの。マウス、ショウジョウバエ、アフリカツメガエルなどはその代表。

10.生き物とはみずからの故障を自らで見つけ、自ら治療するような、しなやかさをもつシステム。しなやかさの見本のような生物がイモリである。

11.発生というのは細胞の増殖、分化、接着、形態形成であって、生物が単純な状態から複雑な状態へと発展すること。人間の場合、卵という一つの細胞が少なくとも200種類の多様性を生まないと人間の素材はできない。クラゲやヒドラの類は7つか8つの多様性しかもっていない。

12.カエルの卵に精子が入っていくところが始めて観察されたのが1854年、ちょうどペリーが浦賀に黒船に乗ってやってきたころだった。

13.発生過程で人為的に邪魔したり、いたずらしたりすることで、ミュータント(突然変異)を観察することができ、発生に関する非常に大切なことが理解された。最も大きな成果は生物の姿、形の成り立ちを支配しているのは遺伝子であることが確実視されたこと。

14.卵のなかで遺伝子により、ある蛋白質の濃度差がつくられる。それによって胚(はい)の前後が決まる。蛋白質の濃度差がまた部分によって異なる遺伝子群をスイッチオンさせ、多様性を生じさせる。

15.奇形のことをホメオーシス(ラテン語の類似とか同数を意味するホメオが語源)というが、その呼称を考えたのが遺伝学者のべーツリンで1894年。奇形の起こるわけに遺伝子が関係しているらしいことがわかり、1980年に入って、ホメオーシスを起こす遺伝子はすべて共通するDNA構造が含まれていることが判った。そこで、ホメーオーシスを起こす遺伝子という意味で「ホメオティック・ジーン」という名前がつけられた。(「ジーンは遺伝子)なかでも、すべてに共通する塩基配列の部分を「ホメオボックス」と名づけた。

16.実験をすればするほど、奇妙な、解けざる神秘が表立ってくる。だから、発生学は神秘論に陥りやすい。

17.発生の多様性の側面は地球上の40億年という長い歴史、進化の所産。

18.地球に生息する生物は推定で5,000万種とも8,000万種ともいわれるが、実際に学名がつけられ記録されたものは約200万種、なかで昆虫類が最も多く50%を占め、昆虫のうちでは甲虫(カブトムシの類)が最多であるが、甲虫のなかでも種の多いのは体の小さい種に圧倒的に偏っている。

 (新種は今尚続々と発見されている)。

19.地球上に初めて生物が出現したときの種類は一種類。

20.遺伝子の働きはDNAでいう分子、物質が担っているが、一つの細胞あたりのDNAの量は種によって異なる。細胞あたりのDNAの量が最も多いのは人間ではなくイモリである。植物なら百合。

21.地球上で一種類から8000万種ともいわれる種の生物が増え、多様化した。そこに、進化の最大の意味がある。

22.哺乳類は4千種、鳥は9千種、虫は百万以上、蝶は1万7千5百。いずれも命名され、記録されている。記録の仕方はスェーデンのカール・リンネが創案した。

23.種類の分類の仕方。最もやっかいなのは虫。かつて、交尾させて子孫が生まれないことを重要な定義とした。種類が違っても、一代までは生まれる場合が多いが、孫がつくれない。とすると、子孫はできないから別種という判断ができる。これをいちちやるのは大変だから、虫の形(たとえば虫の性器)を調べる。現在では遺伝子のDNAを調べることができるから、形から得た指標をどう照合するか調べる。すると、客観性が増す。

24.約5億年前、カンブリア紀に生物の多様性が爆発した。

  約15億年前、真核生物が出現した。細胞核というものに遺伝因子が閉じ込められ、これができるとわりあい早いうちに多細胞生物ができる。

  約20億年前に、植物が光合成を行なっていて、動物のなかには酸素を利用することを覚えた種が出現した。

25.生物は多くのチョイスのなかからDNAを利用したが、これは偶然であり、偶然が勝利を得た。

26.昔のヨーロッパ人は日本人を猿の仲間に分類し、自分たちとは別種の生物に区分けした。(だから、かれらは日本人をYELLOW MONKEYと称して侮辱した。日本人もかれらを蛮族、南蛮人、毛唐と呼称し、同じ人間とは扱わなかった)。

27.生物の分類にはランクがある。最も下からスピーシス(種)、ジーナス(属)、ドライブ(族)、ファミリー(科)となる。

28.日本のトキという鳥と、沖縄にいる飛べない鳥であるヤンバルクイナを比べると、明らかにヤンバルクイナのほうが貴重度は高い。「トキを絶滅から救え」というのは多分に情緒的な気分が強い。

29.化石から過去の生物の遺伝子を知ることは生物学の次の時代の最もエキサイティングな出発点。

30.ジェラシック・パークでは恐竜の血を吸ったであろう蚊が琥珀のなかに閉じ込められたまま化石化していて、その血から恐竜を再生させるという発想で作られた映画だが、現実的にはあり得ない。

 (確かに、オーストラリアやメキシコのオパールは化石そのものが装飾品になったものだし、水晶のなかに昆虫が入ったものも存在するけれども)。

31.「プラナリア」という非常に下等な動物がいる。温度が高い土地では無性生殖をするが、温度の低い土地では有性生殖をする。なかには、高温の土地で、生殖器官なしで増えているものもいる。

32.一卵性双生児の命は生物学的には一つである。

33.動物も植物も遺伝子の動きについては平等。遺伝子の指示で蛋白質をつくらせるDNAで仲介され、同じ機能をもつ。動物も植物も呼吸する。ミトコンドリアの酵素がその役割をする。ただ、植物のほうが動けないぶん環境依存度が高い。1966年以降、生物学は二界説から五界説に変化した。(1)原核生物(2)原生生物(3)菌類(4)植物(5)動物。うち、(2)から(5)までが真核生物。

35.「生き物は方円の器に従う」という形容にふさわしい性質をもっている。

36.人の個体は体の細胞の数は約10兆。実は、10兆の細胞のなかには初めから終わりまでちゃんと細胞の寿命が続いていて置き換わりがない。ところが、猛烈に置き換わるものもある。その最高の例は赤血球で、大人の人の血流1ccのなかに約50億ある。赤血球の命はほぼ120日。となると、1日に2、000億の赤地球が棄てられている。つまり、2、000億の細胞が毎日置き換えられている。1秒間に230万個以上も。しかも、これには補いがついており、終始決算は見事に合っている。逆説的にいえば、細胞の死なくしては生はないということになる。

37.脳の細胞は半分以上は死ぬという説に傾いている。昔は20%が死ぬといっていたが、今ではこれは脳の細胞コネクションがどんどん出来て、相互に連結される。結合から外されたところはどんどん死んでいく。脳の細胞の死によって、我々の脳の機能は十全に働けるようになっている。

38.すべての生物のなかで、再生能力の最も貧弱なのはホモサピエンス(人間)。治せるのは怪我くらい。動物の違いを高等、下等と分けるのも人間の思いあがった根性。

 (現今、盛んに紹介されるようになった「再生医療」の出番が近づいている可能性はある)。

39.生まれる、育つ、老化する、死ぬという起承転結は人間にはいえても、全く別のパターンで生存する生物もいる。プラナリアはそのうちの一種。

40.「なぜ、人間の指は五本なのか?」と問われても、答えようがない。(尤も、羽柴秀吉の指は6本だったと言った宣教師がいたが)

41.地球上に出現した生物は人間がつくりだしたさまざまな物質や破壊に、とんでもない戸惑い、当惑をみせていることは確かである。

 以上だが、1996年の単行本のゆえかどうか、自然の環境破壊の問題についての突っ込んだ話は全く出てこなかったが、生物について知らなかったがことが多かったことを本書を読むことで知った。


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