ろくでなし/冨士眞奈美著

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ろくでなし

「ろくでなし」  富士真奈美(静岡県生まれ)著
1997年4月 近代文芸社から単行本
2004年1月 文春文庫より文庫化初版
¥524

 この作者が書く短編なら、おそらく粋も甘いも心得た、軽妙な、洒落た、品のある、凡人には真似のできない内容のものを書くに違いないと期待した。

 なにせ、富士真奈美は俳句の名手である。

 それが、8編の短編のほとんどが、いわばポルノ小説並みの、品の悪い展開にはあきれ返ったというより、がっかりした。同じ、男と女のことを書くのなら、富士真奈美らしい、優雅さのなかに辛辣な人生模様をユーモアを交えた展開で書くことができるはずで、一編などはアメリカのポルノ映画で名を馳せた「Behind The Green Door」をベースに、それに日本のカップルが体の芯まで揺すぶられる様は下品というしかない。というより、この作者のイメージとは合致しない。

 そのうえ、全部で289ページという短い内容のなかに8編が収められ、うち数編には二つのカップルが入れ替わるという、複雑な構成を採用している。これは、たぶん、「時系列の唐突な反転や変更にも、複雑な人間模様をダブルで錯綜させつつ書き進めても、読者は意外に従いてくるものである」という作家らの良く口にする話が彼女の脳裏にあって、大胆な構成を採ったのだと思うが、それが可能なのは、内容がもっと濃く、それぞれのストーリーがもっと鮮やかで、あからさまな性描写で読者を引っ張ろうとしない展開に終始する作品に限ると、私は思っている。

 解説の、ねじめ正一が「作者は照れながら性愛を書き、巧みなあいの手を入れながら、官能小説に仕立てている」などと、解説を依頼された者として、精一杯の世辞を書いているが、官能を書く以上、本書のようにあからさま且つ卑猥な描写は、少なくとも日本人に対しては、逆の効果を生んでしまう。そこはかとなく、いわば薄着をまとわせて書くから官能を刺激するのであって、このように真正面から書いてしまっては、品の悪い即物的なポルノのレベルに陥るだけであり、ストーリーを損なうだけ。

 正直にいうが、本書の構成には尊大なイメージがつきまとい、途中でむかついた。

 はっきり言って、作者を見損なったという印象。富士真奈美はポルノ作家ではない。何を書くにしても、もっとましな本が書けるはずだ。持って生まれた折角の才能が哭いている。


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