犠牲(サクリファイス)/柳田邦男著

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

犠牲(サクリファイス)

「犠牲(サクリファイス)」  柳田邦男著  文藝春秋

 以前「マッハの恐怖」を読んで以来、久しぶりの著作。

 文がしっかりしていることを再発見したのと同時に、書く対象、背景についての徹底した事前調査にも、手抜きがないことにもあらためて驚嘆と畏敬をもった。

 扱われている内容が悲惨を極める場合(本ケースでは自閉症、自死、脳死、臓器提供という過程を経る)、読者として読み継ぐ気力を失うことがよくあるけれども(私にとって「五体不満足」などが頑張り過ぎで正視できなくなる)、本書には剣道でいうところの一種の間合いが書き手と内容との間にあって、当事者でいながら第三者としての立場を失わずに書き進めており、「目をそむけたくなるような」印象がない。書き手の力というものだろう。

 本書が訴えていること:

 1.人の生は多くの犠牲のうえに存在する。

 2.そう意識することで、この世界を人間が生きるに価するものと認識できる。

 3.人はなにかの役に立つべく生きている。役に立つことで不毛なものを希望に変えることができる。

 欧米のもっともらしい科学的思考というやつに日本人は長年、畏敬もし、畏怖してもきた。西欧式のものの考えに一も二もなく納得、追従してきた。(戦後、わが国は幾多の独自伝統、風習をあっさりと棄てた)。

「日本人は日本人らしい死生観にもとづいて臓器移植を推進していくべきだ」という著者の考えに賛意を表したい。


前後の記事

現在はコメントを受け付けておりません。

サブコンテンツ