ちいさな言葉/俵万智著

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

tiisanakotoba

「ちいさな言葉」 俵万智(1962年生)著
副題:言葉を獲得していく幼子との、発見に満ちた日々
2010年4月6日 岩波書店より単行本初版
¥1500+税

 子育ての経験者には理解できることだが、幼児が言葉を覚えていく過程は親にとって面白く、楽しく、記憶力にも覚える早さにも驚嘆したり、ときに意味を訊かれて困惑したり、説明に逡巡したりということもある。

 作者は言わずと知れた「サラダ記念日」で有名を馳せた女性歌人、短い言葉に万感を込めて創造する和歌の名手、自ら幼子を見守る母親としての目も心も優しく、柔軟な感性に基づいた表現は適切で明晰。

 俵さんの息子が幼稚園に通っていたときのエピソードが印象深い。

 同じ幼稚園にダウン症の子がいて、その子が理不尽な仕草や言葉をぶつけてくることに怒っていた息子に対し、親としてどう説明すべきか迷いながら言葉が見つからぬまま時間が過ぎたある日、息子が「今日、また、バーカっていわれたんだけど、でも、いいんだ。(あの子は)幼稚園では年中さんだけど、心のなかは赤ちゃんみたいなんだよ」と納得するに至ったことに作者は感動する。ダウン症に関する下手な説明をしなくてよかったと胸を撫でおろした感慨は痛いほど伝わってくる。

 作者が幼児たちを見ていて創った歌:

 どんぐりを集めている子、並べる子、中を見たい子、投げてみたい子

 「阪神淡路大震災を詠む」との句会で選ばれた俳句の紹介:

 1)マスクして即死の額囲みたる(宇多喜代子)

 2)雪降り来、「男」とのみの柩あり(中山泰次郎)

 3)倒・裂・破・崩・礫の街、寒雀(友岡子郷)

 作者は本書を上梓した時点では仙台に居住していて、市内で目にしたタンポポを題材に:

 立ち止まり しゃがんでみようたんぽぽが世界を見ている高さになって

 というのがあって、サラダ記念日の延長線上に触れた気持ちになった。

 男の子は例外なく誰もがマザコンであり、母親からの脱却が大人へのファーストステップだとするなら、俵さんの息子さんは大変かも知れない。

 仙台で大震災に遭遇したと思われる著者とお子さんの無事を祈っている。


前後の記事

現在はコメントを受け付けておりません。

サブコンテンツ