精子戦争/ロビン・ベイカー著

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sperm

「精子戦争」 原題:Sperm Wars
ロビン・ベイカー(Robin Baker/イギリス人生物学者)著
秋川百合訳  河出書房新社刊 単行本

 

 このところイギリス人の著作に接する機会が増え、かれらの、ときにバランスを失した細かさや執拗さには辟易しながらも慣れたつもりでいたが、本書には正直いって音をあげた。

 はじめに、訳者による「あとがき」を読んでおよその内容を理解し、ページをもどして65ページまで読んだところで、読書を継続する気力を失った。独断だが、先が見えてしまった気がしたからである。

 タイトルの「精子戦争」というのは、夫が一回射精する6千個の精子同士による戦いではなく、複数の男と交わって膣内に受けた異なる男の「精子対精子」の戦いを意味し、女性の体にわずかに訪れる受精可能期間は夫とは異なる男の精子を欲しがる傾向を古代より人間女性の原衝動として体にも頭脳にもプログラムされているという話からスタートする。

 そして、シーンに登場する妻はそういう期間にむかしの恋人にたまたま邂逅し、不倫を働き、同じ夜に夫とも性交する。結果、受胎し、子が生まれる。二人の男の精子の戦いは旧恋人の精子が優勢で、その子は夫の子でない可能性が強いとの説明がつく。

 私がこのあたりで読書を放棄したのは、ロジカルであるべき学者らしいロジックが欠落していると思ったからだ。

 なによりも、不倫を前提での性行為に二人の大人が避妊手法をまったくとらない非常識が追求されていないこと、誕生した子供の血液型が夫妻の血液型からはあり得ないことが判明すれば、妻の犯した不倫が簡単に露見するばかりでなく、子供に与える衝撃がどのようなものか、そのあたりの私たちが一般的に考え、危惧することへの配慮がまったくないことなどが読み進む気力を失った原因。

 印象として、著者は人類の古代方式「雑婚」を理想の男女関係だといいたいように思われるが、それならそれで、はっきりそういう明言が欲しいし、そのほうが納得もいく。

 イギリスでは25人に1人は父親でない男性の子であり、一卵性双生児の父親が別々の男だったという事例もあるとの事実には驚嘆したが、「本書に登場する人物はどの国籍のどの人種にもあてはまる」という著者の言葉は偏見ではないかという気がする。発展途上国でないかぎり、「どこの国の男女も不倫は好きだが、避妊を配慮しない不倫はあまりないだろう」といったほうが当を得ていると考えるからだ。

 「精子戦争」のことに頭が集中するあまり、内容的に偏向が強いという感じがあり、こういう内容が延々と400ページも続くのかと思うと、「もう勘弁してくれ」といいたくなり、本書はストックルームの隅に放り込まれることとなった。 いつ気が向くかはわからないが、いずれもう一度手にしてみよという気持ちは残っている。なにせ、安い書物ではなかったから。


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