Story Seller/新潮社編集部監修

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書評:ためいき色のブックレビュー-story

  「Story Seller」  新潮社編集部監修

  作者:伊坂幸太郎、近藤史恵、有川浩、佐藤友哉、本多孝好、道尾秀介、米澤穂信

  副題:(1)面白いお話、売ります

      (2)読み応え長篇並、読みやすさは短編並

  2009年2月1日  新潮社より文庫化初版 ¥819+税

 本書は上記した七人の若手作家が各一篇ずつを綴った競作といった印象のものだが、個性の違い、それぞれの息遣いが言葉の選択にも、文章にも、文体にも、ストーリーの展開にも、終焉部分にも現れていて、それぞれに強烈な異質性が感じられ、楽しかった。

 近藤史恵の「プロトンの中の孤独」は自転車ロードレースを軸に書かれた短篇だが、男同士の葛藤、友情、心理が力まず、見事に描かれていて読み応えがある。

 有川浩の「ストーリーテラー」は「思考が脳の劣化を招く」という世にも稀な病気にかかった著作を職業とする妻を描いたものだが、心温まるストーリーだった。なお、この作家の「海の底」という本を先月入手し、読み始めたとたん読み継ぐ意欲を喪失し、放り出してしまったが、同じ作者とは思えない内容だった。

 米澤穂信の「玉野五十鈴の誉れ」は時代もので、五十鈴という嫁と祖母との息づまる関係が一気読みを可能にする。「鵠は日に浴せずして白し」(生まれつきの本性は変えられない)という言葉が記憶に残った。

 佐藤友哉の「333のテッペン」は東京タワーの塔頂部で二人が死体で発見されるという、ちょっと非現実的な話をベースにミステリアスな展開を見せる話だが、20代の作家らしい、斜に構えた意気がりが感じられ、灰汁の強い文章も若干鼻につくし、浮世離れした言葉もピンとこない。今どきの高校生が「見目麗しい」などという言葉を使うとは思えず、「新感覚の小説」との評価があるらしいが、内容は「つくりもの」感が強く、本来の美しい日本語を毀損しているかに感じ、少なくとも私とは相性が悪い。

 道尾秀介の「光の箱」は久しぶりの同窓会が舞台となる話だが、展開に無理がなく、好印象だった。

 本多孝好の「ここじゃない場所」は瞬間移動(テレポテーション)という奇抜なアイディアを軸に展開する、女子高生を主人公とする内容だが、著者を紹介する欄に「ミステリーの技法を駆使して人間の深層心理を巧みに描きだす」という評価があり、期待過剰になったためか、ストーリーにも、幕切れにも突拍子もない印象が拭えなかった。

 伊坂幸太郎の「首折り男の周辺」はトップに出ていたこともあり、記憶に残らなかった。

 こうした編集企画は、若手の作品に接することに躊躇(ためら)いを覚える人にとっては悪くない企画である。一度に複数の作品に触れることができ、自分の趣味に合う作家を知り、その作品を再び手にとる機会をつくってくれるという意味で、疑いなく評価に値する。

 


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