アホでマヌケなアメリカ白人/マイケル・ムーア著

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アホでマヌケなアメリカ白人

「アホでマヌケなアメリカ白人」
マイケル・ムーア(アメリカ人)著
訳者:松田和也
2002年 柏書房より単行本
2008年1月10日  ゴマ文庫より文庫化初版
¥695

 作者は「ボーリング・フォー・コロバイン」や「華氏911」の映画監督であり、作家でもある。

 ことに、前者の映画ではコロバイン高校の学生による銃乱射事件をテーマに銃社会であるアメリカを徹底的に批判、同じ銃社会であるカナダとの大きな違いを示し、ウィンチェスター銃を販売する企業のトップとのインタビューを迫り、量販店のウォルマートに談判して銃の販売をやめさせることに成功するという内容だが、その執拗さには言語に尽くせぬ気迫がみなぎっていた。

 また、あるセレモニーの会場で、マイクに向かい「Bush, You’re stupid!」と大声で怒鳴るなど、ブッシュ大統領とは犬猿の仲であることは国民なら誰もが知っている。

 その作者が、2000年から2002年頃までのアメリカの全貌を、ブッシュが大統領になったことがインチキであることを証拠を集めて暴露するという内容を冒頭に置きつつ、嫌悪の念をベースに、ときに諧謔を交え、ときに憤怒に燃え、ときにユーモアに嘲笑を混在させ、ほとんど全ページを口語体で総括したのが本書である。

 作者の真髄は、しつこさ、破格さ、性根のすわった生き様にあり、同時に物知りであることで、新年早々に本書に出遭えた幸運に感謝している。

 日本人が日本を書くとき、得てして陰湿な傾向に流れるが、この作者は一貫して大らかで明朗であり、自己卑下しながらも力がみなぎっているのは、反喩的だが、世界一の軍事力をもち、広い大地という環境で育ったことが強烈な自負心を育んだものと思量する。本書を世に出すにあたっては、ブッシュの名前を割愛せよとの圧力もあったらしいが、作者は断固として圧力を跳ね返し、出版にこぎつけ、ベストセラーの栄誉を勝ち取った。

 本書はアメリカ人自身にアメリカの隠れた内実を教える格好になっているが、我々外国人にとっても、アメリカという国がどういう国であるかを、ことに2008年から始まった金融恐慌の端を担った国であれば、あらためて学ぶ機会を提供し、語られる内容のどの部分にも驚愕することになるだろう。

 ブッシュに対しては、たとえば、こうである:(文章は、若干ながら、私が言葉や表現を変えてある)

☆ブッシュは成人並みの読み書きができない。

☆報告書を読まない、いや読めない。

☆英語を我々に理解できるように話すことができない。

☆ブッシュのような学習不能症はアメリカに6千万人存在する。

☆1976年には飲酒運転で逮捕されている。副大統領のチェイニーは二度捕まっている。ブッシュの娘二人も任期中に未成年飲酒運転で何度も捕まっている。

☆資格も実力もないのに、イエール大学に入れ、ハーバードビジネススクールに入れたのは、父親から続くブッシュという姓のおかげであり、テキサス空軍州兵として勤めながら、ある日、部隊から逃亡し、一年半も放ったらかしにした。兵役の義務を果たす必要すらなかったのは、それも苗字がブッシュだったからに過ぎない。

☆ブッシュはアル中で、泥棒で、おそらくは重罪人で、おとがめなしの脱走兵で、泣き言野郎。

 
 また:

☆自分は白人だが、白人が最も怖い。過去を振り返ってみても、自分に対し嫌なことをした人間は例外なく白人だった。

☆この地球をこんなにも住みにくくしたのはアフリカ系アメリカ人ではない。白人野郎だ。人類に黒死病をもたらしたのも、有毒物質をつくったのも白人。

 
 「教育問題」では:

☆アメリカには小学生並みの読み書き能力をもつ者が4千4百万人。読書に費やす時間は年間に99時間、TVを見る時間は1460時間、新聞記事を毎日読むのは11%。国民を無知蒙昧にしているのは、教育費に充当すべき経費を軍事費にばかり充てているからだが、そういう国が世界の中軸にあって世界を動かすなどおこがましいというべきだ。国民の大多数は、現在アメリカ軍がどこを攻撃し、どこに駐留しているか、地図上ではっきり示すことすらできない。

☆公共、学校を問わず、図書館の閉鎖や時間短縮が相次いでいる。学校図書館は貧しい子供たちにとって商業主義に汚されない満足の世界に対して開かれた最も明晰な窓であるにも拘わらず、こうした実態は時々刻々に変化する情報世界への対応能力を奪ってしまう。図書館が閉鎖されていない学校でも、そこに並んでいる書籍は古色ふんぷんで、ボロボロのものが多く、現代を知る手がかりとなる本などは一冊もない。

☆アメリカの学校は企業の宣伝広告に使われ、一方で企業から礼金を受けとって経営を維持している。自動販売機の設置、スクールバスに広告を貼りつける、生徒らにロゴ入りのTシャツを着せるなど。地域によっては、企業からの施しを受けないと、教育のための財源が枯渇してしまうからだ。

 
 「環境問題」では:

☆クリントン、ブッシュ二人とも、京都議定書へのサインを拒否した。二酸化炭素を世界で最も撒き散らしているのがアメリカだというのに。しかも、アメリカのトップクラスの科学者が悪化する一方の地球温暖化に対して警鐘を鳴らしているにも拘わらずにだ。

☆狂牛病は現代の黒死病に相当する。その恐ろしさはエイズを凌ぐ。この病気には治療法はなく、予防ワクチンもない。これはあくまで人工の病気であり、共食いが元凶。

 イギリスでは、羊を通じて食物連鎖の中に入り、次いで羊や牛の身体を餌として与えたことが原因であることに気づいたのが1996年。「感染性海綿状脳症(TSE)」というのが正式名だが、変異したタンパク質「プリオン」が脳細胞を変形させ、神経組織をひっかきまわし、スポンジ状態にしてしまう。しかも、プリオンは殺すことができない。理由はプリオンははじめから生命をもたないからだ。

 英国政府は狂牛病の疑いのある牛をすべて焼却処分したが、プリオンを殺すことができない以上、煙や灰が飛んでどこかの土地に舞い落ち、滅することなく生き続けるという、これ以上にない脅威を遺す。

 かつて、二人の研究者がパプア・ニューギニアに渡り、バプア人の多くが精神異常を起こしている実態調査を行ったところ、パプア人同士の共食い(人肉食い)に原因があったことが判明している。

 アメリカでアルツハイマーと診断されている市民のうち20万人は異常蛋白質のキャリアーであり、痴呆症の原因が狂牛病である可能性が高いと専門家はいう。

 (私は2000年以降、都合4回アメリカのラスヴェガスに居住する友人の家に、1回につき2週間平均で宿泊させてもらい、その間、アメリカのフィレ肉を友人の家族と一緒に食べていたから、上記の話にはぎょっとした。日本にいるときは、日本産の牛肉にしか手を出さなくとも、アメリカで牛肉を口にする以上、狂牛病のリスクは甘んじて受けざるを得ない。それにしても、米国政府の圧力外交で、一定の条件を認めさせた上のこととはいえ、アメリカ産牛肉の輸入を再開せざるを得ない立場にある日本には奇怪な病気のリスクがつきまとっていることを認識しておいた方がいいだろう。なにせ、この奇病は30年という長期の潜伏期間があり、食べた人間に即座に現われることはないというのだから)。

 「男たちへの挽歌」では:

☆様々なプロジェクトに手を出し、この世の混迷の度合いを増し、一つの人種をまるごと抹殺し、重油を撒き散らし、食料に毒を混ぜ、バカでかい「SUV」などという車をつくり、大自然を破壊する道をまっしぐらに邁進してきたのは、人類の一方の性、男である。

 ナパーム爆弾(原子爆弾もクラスター爆弾も)つくって落としたり、プラスチックを発明したり、アメリカの脆弱な生態系の中で必要不可欠な位置を占めていた生物の816種を絶滅させたのも、すべて男どもだ。(先住民であるインディアンを殺しまくったのもアメリカ人の男)。

 不幸なことに、今日では、少数の男たちの精子さえあれば、試験管の中で子供をつくれるようになってしまった。この技術も男の仕業であり、男の存在意義は一層希薄になっている。

 具体的に男と女がどう違うかを示そう:

 1.男は女より長く生きられない。
 2.男は女より致命的な病気にかかりやすい。
 3.男の方が性病にかかりやすく、且つ、妻やガールフレンドに感染させる。
 4.男の身体組織は女より早く壊れやすい。
 5.男は禿げる。
 6.男の自殺は女より多い。
 7.男の頭はコンクリートブロックみたいに固い。

 
 「アメリカがナンバーワンなのは」:

☆アメリカの人口は世界人口の4%に過ぎないが、富は世界の4分の1を所有している。

☆京都議定書にサインしなかったために、世界がアメリカの汚い根性を嫌悪しているが、アメリカ人自身も自己嫌悪に陥っている。ブッシュなんて、あんなやつがなんだって大統領をやってるんだ? 世が世なら、あんなやつ、ポトマックリヴァーの橋の上で曝し首になってただろうに。あんなのを選んだアメリカ人はバカそのものじゃないか。(アメリカ人気質というのは、最近のハリウッドがつくっている質の悪い映画に相似している)。

☆アメリカがナンバーワンであるもの:
 1.百万長者の数。
 2.億万長者の数。
 3.軍事予算。
 4.火器による死亡者数。
 5.牛肉の生産量(狂牛病の生産量)
 6.一人あたりのエネルギー消費量
 7.二酸化炭素排出量(豪州、ブラジル、カナダ、フランス、インド、ドイツ、インドネシア、メキシコ、イギリスを合わせた量よりも多い)。
 8.ゴミの量(年間1一人あたり720キロ)
 9.有害廃棄物の排出量(第2位のドイツの20倍、いずれ中国がおいつく)。
10.化石燃料(石油、ガス)の消費量。
11.国内総生産に対比して、税収の少なさ、連邦政府、州政府の経費の少なさ、財政赤字
12.1日1人あたりの消費カロリー(だから、メタボがめちゃくちゃいる)。
13.投票率の低さ。
14.記録された強姦件数。
15.交通事故による死傷者数。
16.ティーンエイジャーの女性の出産数。
17.批准していない国際人権条約の数。
18.少年犯罪の処刑の数。
19.15歳以下の子供が銃火器によって死ぬ確率。
20.15歳以下の子供が銃火器を使って自殺する確率。
21.中学生の数学のレベルの低さ。

 
 「牢獄」では:

 アメリカにおける司法は、政治献金できるか否かで、裁判所の判決が雲泥の差になる。それは、献金を受領する政治家が裁判所に圧力をかけるからだ。したがって、司法制度は持たざる者に対し、極めて過酷。(まるで、発展途上国並みの社会倫理観)。

 国選弁護人も金にならない被疑者のために全力を傾注して救出しようとはしない。認められた場合にだけ、陪審員制度が利用でき、救出されるケースもあるが、弁護人が「陪審員制度を利用したいか?」と被疑者に訊くこと自体が、該当の弁護人への嫌がらせに繋がるという実態がある。

 無実の罪で処刑されたケースがかなりの数に昇ることを暗示している。

 上記は、人権を重視し、正義を重んじ、万人に自由を認める民主主義国家、それがアメリカだと考えていた外国人にとって、信じられない実情であり、アメリカのいう民主主義とはいったい何なのか、開いた口がふさがらない思いに駆られるだろう。裏表紙に、「こんなアメリカに追従する日本に未来はあるのか」との疑問符が呈示されているが、百パーセント反論の余地はない。

 
 以上のように、目にとまった部分を書き続けるときりがないので、このあたりでやめておく。ただ、サブ・プライムローンに端を発した金融恐慌が世界中を巻き込み、空前絶後の経済状態を現出している実態を知って、この作者が現在どのような心境でいるかについて、私は強い好奇心を抱いている。

 全340ページにおよぶ内容には、上記した内容に勝るとも劣らない内容がふんだんに書かれ、読んでいて飽きがこない。


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