文明の自殺/黄文雄著(その3)

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ぶんめいのじさつ

「文明の自殺」 黄文雄(1938年台湾生まれ)著
副題:逃れられない中国の宿命
集英社刊 2007年5月31日 単行本初版

書評その3(最終書評)[その1] [その2]

 「 」内は著者の言葉、以外は私の意見。

 「中国のチベット侵攻後、チベット人口の6分の1にあたる120万人以上が命を奪われ、一方で、800万人を超える大量の中国人をチベットに移植させ、チベット内だけでチベット民族は少数民族と化した」

 「チベットに8千以上あった寺院の90%が破壊され、中学以上の学校教育ではチベット語の使用が禁じられた。中国はチベット文化を壊滅させただけでなく、森林を伐採、地下資源を採掘、野生生物を乱獲、核廃棄物を投棄した。さらに、チベット女性は強制的に不妊治療や堕胎手術を受けさせられ、民族の数は減少の一途をたどるように仕組まれた」

 (21世紀の今日、ナチスのホロコーストにも似た殺戮を平然と行なう国が存在しようとは、到底信じられない。想像するだに、そのやり口の残忍さ、非情さに鳥肌が立つ。チベットで一連の弾圧を指導したのは現在の主席、胡錦濤である)。

 「中国のチベットでの大量虐殺をアメリカは表だって非難したが、日本は靖国問題で内政干渉されながら、中国のジェノサイドに対しては口を閉ざし、沈黙を守った」

 (日本政府の外交手法には筋が通っていず、理解の埒外というほかはない)。

 「中国が自治州にしたチベットにはクロムと硼砂(ほうしゃ)が、内モンゴルには鉱物資源が、広西チャン族自治区には錫が、ウィグル自治区には石油が、それぞれ埋蔵されている」

 (モンゴル本国では、最近になって、レアメタルが大量に埋蔵されていることがカナダの試掘業者によって明らかとなっている。中国はこれを狙うのは火を見るより明らか)。

 「中国は国内に逼迫した状態が起こると、必ず、日本を生贄(いけにえ)に、反日愛国主義を鼓吹する。国内の対政府批判が深刻化する都度、批判の矛先を日本に向けさせるという、ご都合主義は、幼児的な発想以外のなにものでもない」

 (この手法に、日本政府はいつも右往左往するだけ)。

 「中国人は文化的に絶対的な優越意識をもっていて、それはギリシャ人やユダヤ人のもつ選民意識に相似する」

 「台湾人は中国人は嘘つき、ごまかし、いい加減、自己中心、裏切りというイメージで捉え、品性下劣な支那人根性と呼んでいる。中国本土に親友をもつ台湾人は皆無に近い」

 「漢字は漢字文明の発展のなかで歴史古典が堆積しつづけ、時間とともに難解度を深めたため、それを専門に解読する知識人を必要とされた。そして、漢字は知識人が人民を愚民として支配する道具にもなった。漢字文明国から大衆文化が生まれてこないのは、そのためである」

 「漢語族は漢字を知っている人々の集団と定義されるが、有史以来、漢字を識っているか、習得する資質をもっている人間は10%~20%であり、現在でも、国民の80%は文盲か半文盲である」

 「いわゆる中国語は北京語であって、地域によって言語は異なる。ために、視覚的にコミュニケーションできるように工夫されたのが表意的な漢字だった。中国文明が近代科学を生み出せなかったのは、実は漢字文明に原因があると言ったのは、物理学者のローガン。文豪の魯迅でさえ、漢字が滅びなければ、中国が滅ぶと遺言している」

 (とはいえ、表意文字が発明されたにせよ、中国国内のラジオ、TVは、共通語である北京語で放送、放映されているはずだ)。

 「女性に纏足(てんそく)を強い、宮廷で働く男らに宦官(かんがん)を強い、治世者サイドに入るために科挙というテストが用意された。が、これら三つとも導入を拒否したのは日本。纏足がいつから始まったかは分明ではないが、女性の足は小さいほど美しいという「三寸金蓮」という言葉で艶を競わせ、文化のシンボルとした。1930年代まで、中国女性の3分の2は纏足だった。纏足できない女性は農業に従事する労働者階級で、下賎な者と侮られた」

 (三寸の足であれば、まず第一にまともには歩けず、当然ながら逃亡できない、第二に小股で歩かざるを得ず、必然的に股の締まりが良くなるという男らの勝手な思惑が纏足を生んだという説がある。女は富裕の男にとって財産の一つだった)。

 「男女平等は中国文化とは相容れない。女子の社会的地位は低く、いまだに女児は間引きの対象ですらある。古代から一夫多婦制の社会だった。現在、社会体制の建前上、売春婦は存在しないとされていても、WHOによる調査だけでも、約600万人、中国の専門家は約1千万人~3千万人との数値を出している。総売り上げがGDPの10%に相当するとすれば、売春立国ということになる」

 (日本で売春をしている中国人女性は僅かではない。また、数年前に、中国国内で売買春にかかわったとの理由で、日本人ツーリストが槍玉に挙げられたが、中国国内に多数の春を売る中国人女性が存在する事実を、少なくとも私は知っていた)。

 「中国人が永遠不滅を望むのは国家でも民族でもなく、自分の家族である。そういう精神と一人っ子政策は相克する運命にある」

 (日本文明は中華文明から多くを得たのは事実だが、受けたものを100%そのまま受けたものはない。必ず、日本社会、日本的倫理観のありように合わせて取捨選択したり、改善したりしている。儒教ですら、中国で理解されている内容と、韓国で理解されている内容と、日本で理解されている内容とには大きな違いがある)。

 「儒教を国教として実現しようとした時代、官僚への任官、孝行で有徳な人物を選抜する制度があり、村の評判に基づいて推挙するシステムだったため、自己宣伝と売名行為が流行。これにより、中国の偽善的民族性が育まれてしまった」

 「中国人の日常生活は今なお古典の制約を受け、四書五経からの影響が強く、中華文化が創造性を失う結果を導いた。古典権威を絶対視する尚古主義は病的でさえあり、保守精神を育成するだけで、自由な発想が阻害される。古(いにしえ)に学ぶ超保守主義が没落と衰亡を決定づけている」

 「マルクスは中国は『生きた化石』と称し、『密閉された棺おけに注意深く保存されたミイラ』と喩えた。フランスのロマン主義者ユーゴは『ホルマリン保存された胎児』と比喩して、保守性と幼児性を批判、ドイツの哲学者ヘルダーは『シルクに包まれ、象形文字に描かれ、防腐用の香料に塗られたミイラで、体内に流れているものは冬眠中のネズミの体内循環と似ている』とこきおろした」

 「中国も西方から伝来する科学的知識(天文学、暦法、火薬、羅針盤、地図、科学的技術、考証学、物理学など)を得ていたが、近代化に向かう意識と伝統的意識との衝突が新しい創造の芽を潰してしまう土壌だった」

 「中国は今や文化的、文明的魅力を喪失し、代わりに軍拡に注力するようになった。世界を恫喝すること以外に世界に伍していく自信の喪失を裏書きしている」

 (同時に、軍拡はやがて起こり得る国内争乱、あるいは北朝鮮の暴発への備えでもあるという上層部の発言は嘘ではないだろう)。

 「中国文明の自殺がもたらす危機は地球規模におよぶこと。だから、この華禍から世界をどう守るかは地球規模の課題ともなるだろう」

 

 以下はすべて私の意見。

 台湾はかつて蒋介石が中国本土での野望が潰(つい)えて、逃亡してきた土地であり、以来、指導者が変わっても、中国とは一線を引き、先進諸国が認める認めないは別にして、主権国家を主張してきた経緯がある。アメリカの庇護を得つつ、中国の脅威に対し軍事的備えも疎かにはしなかった。ところが、中国が経済力を上昇させるにつれ、国内航空を互いに飛ばしあい、輸出入を増やしあうようになっている。

 アメリカですら、中国が改革開放後、経済的に急成長してくるや、態度をあらため、中国との結びつきを深め、航空路線まで開いて、仮想敵国から友好国並みへと姿勢を変貌させている。

 著者の歯に衣着せぬ批判、将来への見通しには感ずるところ多いけれども、本書は日本人よりも、まず台湾人と中国人に読ませるべきだろう。

 台湾にせよ、日本にせよ、中国との距離が狭くなればなるほど、中国が破綻したときの影響も、荒廃も、それに比例したものになり、回復への道は厳しいものになるはずだ。日本企業のなかには、中国に工場なり支店なりを設けた企業も少なくはないが、なかには早くも中国と中国人の本質を見極め、中国からタイ、ヴェトナム、インド、バングラデシュ、インドネシアなどに居を移した企業もある。

 とはいえ、中国という国が今後、作者の主張するようなことになるのか否かに関しては、まだ結論は出ていない。識者のなかには、世界に冠たる一国に成長するだろうという意見も執拗に存在する。現実に、世界がアメリカ発の経済恐慌に席巻されているなか、景気浮揚に中国の潜在経済力に期待する声は後を絶たない。

 ギリシャの経済破綻に苦悶するユーロ圏からも支援を求める声が中国に届いている。


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