血の味/沢木耕太郎著

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「血の味」 沢木耕太郎著   新潮文庫
2000年新潮社より単行本として初出
2003年3月文庫化初版

 知己の一人が沢木フアンの私に、貸してくれた一書。

 本書には、彼がかつて書いた「テロルの決算」「一瞬の夏」の二冊が深く関係しているように感じられる。そこに共通するのは「ナイフ」「ボクシング」「殺人」「少年」という言葉群で、同じ著者が書いたその他のノンフィクションとは異質であり、彼が書いたノンフィクションものよりも読者の数は少ないかも知れないが、著者の胸の奥に秘められた、言葉を換えれば、この著者を根底から揺り動かすなにものかが埋め込まれているような気がする。

 小説にはノンフィクションとは違い、虚飾や、想像が混入し、ある点で真実に触れながら、虚と実とを包含させつつ物語をつむぐという性質をもつ。そして、そのなかに、ときとして、著者の心の深いところにある消しがたい部分が垣間見える。

 とはいえ、本書は著者の一面を鋭く表現した一書であるとは思いつつも、好きにはなれない著作となった。「男らしさ」「清々しさ」「潔さ」という、私が著者に対して抱くイメージがものの見事に瓦解していく音を聞いたような気がする。

 夢の話が多いことも、そのうちの一つの理由だが、読了後にすっきりした印象を残さず、読者の想像、憶測、理解に預けてしまう手法が不快感を増幅し、記憶に強いインパクトを残しはしたが、その強さと同じ程度の不快をも残してしまい、いわば忘れたいのに忘れられない屈辱に似たもの、わだかまりを読者としての私の胸底にも残したからである。


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