日本は悪くない、悪いのはアメリカだ/下村治著

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

日本は悪くない、悪いのはアメリカだ

「日本は悪くない・悪いのはアメリカだ」
下村治(1910-1981/経済学博士)著
帯広告:本書にこそ日本が進むべき「正しい道」が示されている
1977年4月 ネスコ刊 単行本 初版
2009年1月 文芸春秋 文庫化初版 ¥552+税
復刻版推進者:神谷秀樹(1953年生/ゴールドマンサックスを経、独立、NYC在住)

 本書は既に物故した経済学者が30年も前、日本とアメリカの間に「貿易摩擦」問題が浮上していた頃に書かれたものだが、内容は今日のアメリカ経済の崩壊を予言し、あわせてアメリカに追随する愚を示唆、日本は日本人の身の丈にあった経済を推進していくことが正しい姿勢であることを主唱するもので、言説の見事さ、予言の鋭さに驚嘆させられる。

 本書を推薦復刻することに協力したのが神谷秀樹(「ウォール街の自爆」の著者)、本書著者の先見性を世に知らしめようとの意図のもとに実現した。

 表記の「日本は悪くない、アメリカが悪い」は、ときの大統領レーガンが大幅減税を行い、消費の活発化によって経済の拡大均衡を目指したところ、数年間はうまくいっていたものの、アメリカ人の消費者に支えられ、当然ながら日本(だけではなかったが)の対米輸出がさらに増え、1960年から10年間にわたり順調な経済成長を達成。5年後には、レーガンの思惑は揺らぎはじめ、輸入が増大、輸出は軟調という結果が示され、成長著しい日本を名指し、「日本が悪い」との発言に至った経緯からの命名となった。

 本書の冒頭に、「ボーイングの日航ジャンボ機が524人を乗せ、操縦不能に陥り、群馬県の山腹に落ちたとき、亡くなった方々には申し訳ないが、私はアメリカ経済の崩落を連想した」との言葉には、虚を衝かれ、しばらくは唖然とした。

 推薦者の神谷は言う。

 「世界経済はレーガン以来、ウォール街の強欲と拝金主義とに、あまりに永いあいだ引きずり回されてきた。ウォール街が自爆するまで、日本も疑うことなく追従してきた。規制を緩和し、自由勝手にさせれば、経済は成長し、税収は増え、生活は豊かになり、国は強くなるという幻想が信じられ、追求された。その結果が世界経済をズタズタにし、何もかも納税者の金を政府が使い、丸抱えしなければならなくなった。下村は日本人の価値観に立ち返り、日本人が望む社会とはどんな社会なのか、あらためてヴィジョンを描くべき時がきていると」と、本書の「まえがき」で解説している。

 (「日本人が」というとき、そのなかに日本人官僚や政治家を含んでいるのか否か、不明)。

 以下は著者の残した言葉のなかからポイントを挙げておく。

1.当時、アメリカが抱えていた赤字は財政赤字だけでなく、国際収支も赤字で、日本だけが突出して黒字だったために、日本が槍玉に挙げられたが、悪いのはアメリカの経済運営であって、失敗に気づいたレーガンは賃金の安い韓国や台湾に企業を脱出させて工場をつくったが、これでは輸入が一方的に増える結果を導くだけで、債務超過からの脱却は一層難しくなる。こうしたお門違いの経済運営はなにかの拍子に爆発する危機を孕(はら)んでいる。もしそうなったら、ドルの暴落を惹き起こし、世界経済に大きな打撃を与え、後始末には大きな困難がつきまとうだろう。

 為替レートをドル安に導き、赤字幅の減少をたくらんだこともあるが、赤字は減らず、「日本と西独が内需拡大をやれ」と問題を外部にもってきて責任を他国になすりつけた。

2.最大の問題はアメリカの経済運営に根本の問題があることを、アメリカ人が理解していなかったことだ。こういう経済はいずれ破綻する。水ぶくれした部分を抱えたまま強固な経済を創造することは不可能だからだ。レーガン教書も虚構に虚構を重ねただけだった。

3.アメリカは借金で経済を膨張させるだけ膨張させ、世界中の商品を吸い込む形になり、その吸引力に日本商品も巻き込まれたに過ぎず、その結果の尻拭いを日本にもってくるのは甚だしく筋違いであり、非論理的である。

 レーガンは日本に市場の開放を迫ったが、それぞれの国にはそれぞれの事情があり、伝統があり、独自の文化がある。世界経済のなかで最も重要な位置を占めているアメリカが節度を失っては、問題は解決しない。

4.戦後、アメリカは圧倒的な力で世界経済を牽引し、支え、リードしてきた。世界経済の健全な状態を堅持してきたアメリカの経済であったればこそ、アメリカのドルが世界の基軸通貨として成立した。アメリカには是非とも従来もちあわせていた節度を回復してもらいたい。

5.アメリカは日本に市場開放を迫るが、アメリカの国際収支の悪化と日本市場の開放とは全く関係がない。「生産性の低い農業をやめて、食料をアメリカから買え」との恫喝に、日本は渋々市場を開放したが、アメリカが考えていた国際収支の悪化からの脱出とはいかなかった。そこで、さらなる円高に導かれる。

 (「食料づくりは国の要であり、一国の死活を制する分野であり、生産性の問題を超えている」と、中曽根元首相はなぜ公然と反論できなかったのか?唯々諾々に従うだけで「ロン・ヤス関係」を築いただけなら、中曽根でなくとも誰にだって出来る。弱腰外交のために、今や多くの田地田畑が遺棄され、国内のあちこちに醜い姿をさらし、廃村と化した土地も少なくない。しかも、日本が仕方なく依存していた玉蜀黍、小麦、大豆など、突然、日本への輸出がストップされ、エタノール精製に回されてしまった。これ以上、アメリカの言いなりになるのは愚に愚を重ねることになるだろう。食料と水だけは他国に頼ってはならない)。

 (さらに、日本がアメリカの誘導で、為替レートを変動相場に移行したのに比べ、毎年10%以上の経済成長を続けている中国は未だに固定相場を頑固に守っている。ことの良し悪しは別にして、そのしたたかこそ外交との名に値するものだ)。

6.アメリカの経済学はマネーゲームに振り回され、目先の情報をいかに利用して流れに乗り、うまい具合に儲けることばかり考えている。だから、かれらは経済問題を基本的に本来あるべき姿では理解していない。さらに、為替のフロート制度は放っておけば、自然にうまく収斂(しゅうれん)して収まるところに収まるという思想をもっているため、フロート制度が内包するリスクに関する視点をもっていない。

 「合理的形成理論」というのがアメリカにある。人間は合理的な期待で合理的に行動する。したがって、世の中は合理的に動くから、自由放任しておいても、多少の起伏を示しながらも、いずれまともな形に回復するという保証のないマネーゲームと化した。株式投資、土地投機、商品相場投機などすべて自由に任せておけばうまくいくという思想に凝り固まっていて、そこに経済の中心が優先されるため、国民経済という視点がすっぽり抜け落ちている。

7.自由貿易は決して神聖にして犯さざる至上の価値ではなく、自国の完全雇用こそが第一の優先課題である。完全雇用を達成するために輸入制限の強化が必要とあれば、それを前提に貿易を行なうのが当たり前の姿勢。自由貿易の名のもとに、超大国が過去に弱小国を支配する格好の手段になったことを認識しておくべだ。

8.自由貿易は国際経済のなかでの選択肢の一つに過ぎない。世界の国がそれぞれ節度ある経済運営を行なえば、世界経済は安定する。世界経済は各国の単なる連鎖に過ぎず、それゆえに、どこかの国が異常な経済運営を行なえば、世界経済に反映して不安定になる。累積債務国がさらに新たな債務を重ねれば、他国の経済計画を狂わせてしまう、その国こそがアメリカであり、力が巨大であるだけに、影響も激しく、世界経済を撹乱することになる。

9.財政赤字を解消するためには、GNPの縮小を覚悟のうえで、歳出を削減し、増税をやるほかはない。歳出の削減は所得の減少にはじまり、消費の低迷、設備投資の減退、経済活動の縮小、税収の減というように、波及的に、その効果はぐるぐる縮小しつつ回転する。問題の解決には苦痛が伴うが、赤字を減らす目的のためには苦痛を伴わずにやれる方法はない。レーガンの失敗は、国民の生活水準のダウンを容認できなかった、国民が政府に対してマイナスイメージをもつことを懼れたからだ。

 戦争の場合も、陣を広げれば、それを確保、維持するために、さらに多くの兵士の血が流れる。拡大した陣地の維持は難しい。陣地の縮小は、すでに多くの血が流された実情から、抵抗があり、予備兵力をさらに注ぎ込んで犠牲者を増やすという悪循環に陥り、最終的には国民の批判を呼び、撤退する以外に手段のないことを知る。

 (かつてのヴェトナムを、現在のイラクを彷彿させる言句である)。

10.アメリカ経済には上昇力はもうない。アメリカに追随し、依存していれば、いずれ日本も同じ道を歩むことになる。アメリカが経済を縮小させるためには無期限に大量のドルをばらまいて(印刷して)、強力に為替市場に人為的に介入するほかはなく、こうなれば、ドルが世界中に氾濫してしまう。当然ながら、アメリカは見限られ、世界の金がアメリカから流出する可能性が予想される。世界経済がアメリカの経済危機に覚醒すれば、一挙にドルの崩落がはじまる。今や、それがいつ起こっても、おかしくない状態である。

11.GHQ(戦争直後のアメリカ進駐軍)は日本人を骨抜きにするための置き土産を残した。平和憲法、日本的伝統の放棄、日本人としての自尊心の否定、天皇や国家に対する軽視などによって弱体化をはかったが、その目論見は見事に実現している。日本人家庭で国旗などをもっている人はなく、国旗を祝日に掲揚する家もない。

 (ある党は「平和が好き」などというスローガンを掲げて、自国を自国の手で守る原則すら忘却の彼方といったテイタラク)

 以上、まるで現在のアメリカ経済、世界経済に関して書いているかの感があるほど、先見性に優れ、30年も前に書かれた著作だとはとうてい思えない内容。レーガンとブッシュとは同じ穴のムジナであり、経済音痴で、人殺しが好きな点での一致すらある。

 内容的には、僅かに、出版後の実態に合致しない部分もありはするが、本書の価値を損なうほどのミスではない。とはいえ、こういう先の見える人ほど、その当時、「他者との比肩を超える人材」であるとの認識が周囲にはなかったであろう。


前後の記事

現在はコメントを受け付けておりません。

サブコンテンツ